人事労務
2024.08.08
雇用契約書とは?必要性や記載すべき事項から作成方法、労働条件通知書との違いを解説
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近年では、働き方改革や多様化する雇用形態に対応するためにも、雇用契約書を締結することが重要視されています。雇用契約の締結により、労働者は労働に従事する義務が、企業にはその労働に対して賃金を支払う義務が発生します。締結の義務はありませんが、トラブルを未然に防ぐために有効です。
この記事では、雇用契約書について詳しく解説します。記載すべき事項、作成方法、さらには労働条件通知書との違いについても紹介します。雇用契約書を作成しようと悩まれている人事担当者や雇用主は、ぜひ参考にしてください。
雇用契約書とは
雇用契約書とは、労働者と使用者が労働条件について明確に定め、合意した条件を書面で記した契約書です。労働基準法で定められた最低限の労働条件を守ることはもちろん、内容を具体的に定めることで、双方の権利と義務を明確にします。また、労働にともなうトラブルを未然に防ぐ役割も果たしてくれます。
雇用契約書と労働条件通知書の違い
雇用契約書と似たものに労働条件通知書があります。その違いを表で比較してみました。
項目 | 雇用契約書 | 労働条件通知書 |
目的 | 労働者と使用者が労働条件について合意する | 労働者に労働条件を周知する |
作成主体 | 労働者と使用者の双方が作成 | 使用者のみが作成 |
署名・捺印 | 労働者と使用者の双方が署名・捺印 | 労働者は不要 |
法的拘束力 | 当事者間の合意に基づく契約書であり、法的効力を持つ | 労働基準法に基づく書面であり、法的効力を持つが、雇用契約書ほど強い効力はない |
記載事項 | 労働条件通知書に記載されている事項に加え、より詳細な事項を記載できる | 労働基準法第15条で定められている事項 |
提出時期 | 労働契約締結時 | 労働契約締結後、速やかに交付 |
雇用契約書は、雇用主と労働者との間で交わされる書面です。労働条件を通知する目的がある場合は、絶対的明示事項と相対的明示事項を記載する必要があります。
絶対的明示事項とは、労働基準法第15条により労働者に明示する一定の労働条件のことです。契約期間や業務内容・労働時間・賃金・退職に関する詳細などがあります。それに対し、相対的記載事項は、会社ごとに定められている事項です。退職手当・賞与・手当・職業訓練・表彰などが相対的記載事項にあたります。
雇用契約書に記載すべき項目
雇用契約書に記載すべき項目は以下のとおりです。
当事者 | 労働者と使用者の氏名または名称 |
契約期間 | 労働契約の期間を定める場合の期間 |
契約更新 | 有期の場合はその条件 |
勤務地 | 労働者の通常の勤務地 |
業務内容 | 従事する業務内容 |
職種 | 労働者の職種 |
賃金 | 賃金の額、支払い方法、支払時期、昇給 |
労働時間 | 1日の労働時間、休憩時間、休日、残業 |
休暇 | 年次有給休暇、その他の休暇 |
福利厚生 | 社会保険、雇用保険、退職金、健康診断 |
解雇・退職 | 解雇・退職の条件、解雇予告、解雇手当 |
その他 | 秘密保持義務、競業避止義務など |
以上の内容は絶対明示事項です。一方、各種手当、労働者の費用負担、安全衛生に関するもの、研修、表彰、制裁などは、相対的明示事項にあたります。記載の義務は、絶対的明示事項のみですが、できるだけ詳細に記載しておいた方が、後々のトラブルを避けられるでしょう。
雇用契約書の効力
労働者と使用者は、書面の内容に従って権利と義務を負います。法的効力を持つため、労働者と使用者の両方の合意が必要です。違反した場合は、30万円以下の罰金が発生。作成に際して、弁護士や労働組合に相談・確認しましょう。
労働条件明示のルール変更
2024年4月から労働条件明示のルールが改正されました。それが以下の3点です。
- すべての労働者に対し、契約締結時と更新時に就業場所と業務変更の範囲を伝える
- 有期労働契約の締結時と更新時に更新条件の有無と内容を伝える
- 有期労働契約者に対し、無期転換申込の機会と労働条件を伝える
このような改正ルールに沿って契約書もアップデートしたものを用意しましょう。
参照:厚生労働省|労働条件明示のルール変更リーフレット
雇用契約書のメリット
雇用契約書のメリットは以下の3つです。
- トラブルを防止できる
- 労働者の権利を守れる
- 使用者の労務管理を円滑にする
それぞれ詳しく見ていきましょう。
トラブルを防止できる
書面でお互いが確認・承認したうえで契約するため、労働条件についての誤解や認識違いを防ぐ効果があります。労働者と使用者双方の権利と義務が明確になるため、不要なトラブルを未然に防止できるでしょう。
労働者の権利を守れる
雇用契約書は、労働者の権利を守るための重要な証拠となります。トラブルが生じた場合、契約書に記載された内容が客観的な証拠として認められます。労働条件について使用者とトラブルになった場合も、労働者が有利に交渉を進めるために重要です。
使用者の労務管理を円滑にする
労働条件を明確に記載することで、使用者は労働者を適正に管理できます。組織全体で一貫性のある取り組みができ、労働者に求める労働の基準が明確になるからです。また、労働者側にとっても契約書の内容がモチベーション向上につながるでしょう。その理由として、昇給や昇進の条件が明示されていると、努力すべき箇所が明確になるためです。
雇用契約書の作成方法
雇用契約書の締結方法は以下のとおりです。
- 契約内容を確認し記載項目を決める
- ひな形を用意する
- 具体的な内容を記載する
- 労働者と使用者が署名・捺印する
具体的な内容について詳しく解説します。
契約内容を確認し記載項目を決める
雇用契約の内容を確認し、何を記載すべきかを決めましょう。その際、絶対的明示事項は必ず記載します。雇用契約書の絶対的明示事項とは、労働基準法第15条に基づく基本的な労働条件に関する項目です。絶対的記載事項に関しては、上記で紹介しているので、参考にしてください。
疑問点があれば、弁護士や労働組合に相談しましょう。
ひな形を用意する
ゼロの状態から作成するのではなく、ひな形を用意します。雇用契約書のひな形は、クラウドサインやマネーフォワードなどのサイト上に無料で提供されているので、それを利用してもよいでしょう。最近は、電子化された契約書での締結も増えています。どのサービスを利用するかも含め、一番使いやすいものを選びましょう。
具体的な内容を記載する
記載項目の具体的な内容を決め、記入していきます。
記載に関する注意点は以下のとおりです。
- 労働契約期間を明示する
- 就業場所と担当業務を具体的に記載する
- 労働時間は休憩時間も具体的に記載する
- 賃金の決定方法や計算方法。支払い日、支払方法まで明示する
労働期間は、正社員の場合は「期間の定めなし」、パートタイムの場合は契約期間や更新の条件などを明示しましょう。労働時間が変則的な場合でも、コアタイムやフレキシブルタイムの具体的な時間帯や開始および終了時間も記載します。
労働者と使用者が署名・捺印する
労働者と使用者用にそれぞれ1部ずつ契約書を用意し、確認後に双方で署名・捺印します。署名・捺印は、それぞれ本人が行いましょう。
契約時に必要なものは以下のとおりです。
- 雇用契約書
- 労働条件通知書
- 本人確認書類(免許証など)
- 銀行口座情報
- 印鑑
契約後は、労働者と使用者がそれぞれ各自で契約書を保管します。電子契約書の場合は、PDFを保管しましょう。雇用契約書締結後、使用者は労働者に雇用契約書と労働条件通知書を交付します。口頭での契約は、何かトラブルが生じた時に法的根拠とはなりません。
雇用契約書作成の注意点
雇用契約書作成の注意点は以下のとおりです。
- 労働条件を明確にする
- 労働者の意思を確認する
- 強制や脅迫をしない
- 法令を遵守する
- 弁護士にチェックしてもらう
それぞれ詳しく見ていきましょう。
労働条件を明確にする
労働条件は、具体的かつ明確に記載しましょう。専門用語の使用は避け、誰でも理解できるわかりやすい文章や平易な言葉を使用します。雇用契約書は、使用者と労働者の義務と権利の法的根拠となります。それゆえ必要な事項をすべて記載しましょう。
労働者の意思を確認する
労働契約書は、労働者に労働条件を理解した上で、署名・捺印します。そのため使用者は、労働条件について十分に説明し、労働者の質問に丁寧に答える義務があります。後のトラブルを避けるためにも、労働者が不本意なのに署名・捺印させないよう注意しましょう。
強制や脅迫をしない
「契約書に署名・捺印しなければ、採用を取り消す」のような行為は違法行為です。強制や脅迫によって契約締結しないようにしましょう。脅迫して締結した場合は、法的に無効とされる可能性もあります。
法令を遵守する
労働契約書は、労働基準法等の法令にもとづいて作成します。労働時間に関する規定や、解雇に関する規定など、法令で定められた基準を遵守したものにしましょう。また法令が改正されることもあります。その都度、新しい改正点をアップデートしていくことも重要です。
弁護士にチェックしてもらう
雇用契約書の内容について不安がある場合は、弁護士に相談しましょう。労務トラブルが起こった場合も、弁護士のアドバイスに沿って対応します。顧問弁護士がいない場合でも、スポットでチェックや相談をお願いできる弁護士はいます。
まとめ
雇用契約書は、法律上の義務ではありませんが、労使双方の権利を守るために作成すべきです。労働者が望む場合は、書面の交付以外に、ファックスや電子メールでも対応しましょう。作成時は、企業法務に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。紛争や訴訟対応、労働法に精通している弁護士であれば、雇用契約書の作成やチェックにも適しているからです。手間はかかりますが、円滑な労使関係のために、人を雇う際には雇用契約書を交わすようにしましょう。