人事労務

2024.08.08

ハラスメントとは? ハラスメントの種類と、企業が取り組むべき防止・対処法をご紹介

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ハラスメントとは? ハラスメントの種類と、企業が取り組むべき防止・対処法をご紹介

ハラスメントは、大きな社会問題となっており、ときには人の命を奪うこともあります。企業におけるハラスメント防止対策は、法律改正により義務化されました。

この記事では、ハラスメントの定義と関連する法律について詳しく解説。それにともない企業が取り組むべき対処法についても紹介します。ハラスメント対策に悩む人事担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

ハラスメントとは

ハラスメントについて、以下の3つのポイントで詳しく解説します。

  • ハラスメントの定義
  • ハラスメントの現状
  • ハラスメントのレベル

それぞれ詳しく見ていきましょう。

ハラスメントの定義

ハラスメントとは、英語で「嫌がらせ」を意味する言葉です。職場や学校、家庭など、さまざまな場所で発生し、人間としての尊厳を傷つける、苦痛を与えるなどの行為を指します。被害者の心身に悪影響を及ぼすだけでなく、人間関係の悪化や職場環境の悪化、離職、うつ病などの精神疾患を引き起こす可能性もあります。

ほかにも「故意・過失によって他人の権利や法律上の権利を侵害する行為」「人間関係の優位関係や立場を利用して、相手に対して不快感や不利益を与える行為」などとも定義され、新しいハラスメントも次々に誕生中です。ハラスメントは、民法の「不法行為」に当たる可能性があり、企業に対して防止措置が義務付けられています。

ハラスメントの現状

画像引用:令和5年度厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書

2023年に厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年以内にハラスメントを受けたことがあると回答した者は、パワハラ18.3%・セクハラ6.3%でした。(ハラスメントの種類については後述します)

業種別では、建設業(26.8%)が最も高く、次いで複合サービス業(26.8%)、教育・学習支援業(20.6%)、医療・福祉(20.6%)となっています。

画像引用:厚生労働省|ハラスメントに関する施策および現状(令和6年)

また、ハラスメントに関する相談件数は、令和4年の段階で年間132,252件と年々増えています。近年、ハラスメントは深刻な社会問題として認識されており、法整備や企業の取り組みなどが進められているところです。

ハラスメントのレベル

ハラスメントのレベルは、深刻度によって段階が分けられます。一般的には、以下の3つのレベルに分類されます。

  • 軽微なレベル:被害者が不快やストレスを感じる
  • 中等度なレベル:被害者に精神的苦痛を与え、日常生活に支障が出る
  • 重度なレベル:被害者にPTSDなどの精神疾患を引き起こしたり、自殺に追い込んだりする

また、行為によっては法的に罰せられるケースもあります。法律上、規制対象となっているのは以下です。

  • パワーハラスメント
  • セクシャルハラスメント
  • マタニティハラスメント
  • パタニティハラスメント
  • ケアハラスメント

明らかに犯罪である場合を除くと、規制や努力義務での解決となっています。それぞれのハラスメントの定義については、後述します。

法令によって定義されたハラスメントの種類と具体例

法律上禁止されているハラスメントと具体例について解説します。

  • パワーハラスメント
  • セクシャルハラスメント
  • マタニティハラスメント
  • パタニティハラスメント
  • ケアハラスメント

それぞれ詳しく見ていきましょう。

パワーハラスメント

労働施策総合推進法30条の2では、パワーハラスメントの要件は以下のように定めています。

  • 職場にて優位的な関係に基づいて行われること
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること
  • 労働者の就業環境を害する言動であること

以上のすべての要素を満たすものがパワーハラスメントと認定されます。対象は、パートタイム・契約社員などの非正規雇用労働者を含むすべての労働者です。

厚生労働大臣が定める指針によれば、以下のような条件に当てはまると、パワーハラスメントと認定されます。

  • 身体的な攻撃:たたく・蹴る・ものを投げる・わざとぶつかるなど
  • 精神的な攻撃:侮辱・長時間にわたる𠮟責・威圧的叱責・罵倒
  • 人間関係からの切り離し
  • 過大な要求:対応しきれないレベルの目標や業務の押し付け
  • 過少な要求:仕事外し・別室に隔離・自宅研修
  • 個の侵害:個人情報の暴露

ただし、客観的に考えて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントに該当しません。

セクシュアルハラスメント

職場において行われる労働者に対する性的な言動により、労働者が不利益を受けたり、就業環境が害されたりする状態を指します。

男女雇用機会均等法11条では、以下の2つの要件を定めています

  • 対価的セクハラ
  • 環境型セクハラ

対価的セクハラは、優遇する対価として性的な言動を要求したり、性的要求に応じない労働者に解雇・降格・減給などの不利益を与えたりすることです。

環境型セクハラは、職場内での性的な言動により労働者の就業環境が害されることを指します。具体例としては、性的な冗談やいやがらせ、性的な動画や画像の送信などです。

マタニティハラスメント・パタニティハラスメント

このふたつのハラスメントは、出産や育児に関するハラスメントです。

  • マタハラ:妊娠・出産・育児に関する言動により、女性労働者の就業環境を害すること
  • パタハラ:育児に関する言動により、男性労働者の就業環境を害すること

パタニティ(paternity)とは、父性をあらわす言葉で、男性が育児時短や育休を請求もしくは取得することで、不利益な扱いや嫌がらせを受ける状態です。具体的には、育休申請しても認めない、復職後に仕事を与えないなど。

このふたつは「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」「男女雇用機会均等法」「育児・介護休業法」などにて、適切な防止装置を講じるよう雇用主に義務付けられています。

ケアハラスメント

ケアハラスメントとは、介護休業の利用に関する言動により、労働者の就業環境を害する状態を指します。

具体例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 昇進や昇格の差別
  • 異動や転勤の不当な扱い
  • 長時間労働や休日出勤の強制
  • 介護休暇取得の妨害

ケアハラスメントは、職場の上司や同僚から受けるケースが多く、介護との両立を阻む深刻な問題です。

社会情勢によって定義されたハラスメントの種類と具体例

法令上の定義はなくとも社会情勢によって定義されたハラスメントを紹介します。

  • ジェンダーハラスメント
  • モラルハラスメント
  • アルコールハラスメント
  • 時短ハラスメント
  • スメルハラスメント
  • アカデミックハラスメント
  • ハラスメントハラスメント

具体例とともに詳しく解説します。

ジェンダーハラスメント

ジェンダーハラスメントとは、性別による嫌がらせや差別を指します。

  • 性別による役割分担の押し付け
  • 性別を揶揄する発言
  • 性的な冗談やいやがらせ

具体的な発言例としては「女のくせに」「男なんだから」「女の腐ったような」「女が賢くなったらろくなことがない」「男は泣くな」など。

無意識な発言や冗談でも、本人が心理的ストレスを感じた場合は、ハラスメントに当たります。

モラルハラスメント

モラルハラスメント(モラハラ)とは、倫理や道徳に反する言動や態度による嫌がらせのことで、精神的DVとも呼ばれます。

  • 人格の否定
  • 尊厳を傷つけたりする言動
  • 暴言
  • 侮辱
  • 無視
  • 仲間外れ

以上のような形で、被害者に精神的な苦痛を与える状態を指します。

アルコールハラスメント

飲酒に関する嫌がらせや迷惑行為全般を指します。以下のような行為がアルコールハラスメント(アルハラ)に該当します。

  • 飲酒の強要
  • 一気飲ませ
  • 意図的な酔いつぶし
  • 飲めない人への配慮を欠くこと
  • 酔ったうえでの迷惑行為

アルコールハラスメント(アルハラ)とは、ときに命を奪うことすらあるため、軽く見てはいけません。アルハラは、人権侵害に当たる行為として位置づけられています。

時短ハラスメント

時短ハラスメントとは、時間内にこなせないほどの業務量にもかかわらず、定時での退社を強要したり、残業・休日出勤を禁止したりすることです。具体的な例として以下のような行為があります。

  • 定時退社を強制
  • 業務量に関係なく、残業時間を制限
  • 短時間で仕事を終わらせられないことを理由に叱責
  • サービス残業を強要

残業や休日出勤を禁止することで結果的に仕事を家などへ持ち帰るケースが増え、その労働に対する正当な報酬が得られない場合も時短ハラスメントに当たります。

スメルハラスメント

スメルハラスメント(スメハラ)とは、体臭、口臭、香水などの強い香りが原因で、周囲の人に不快感を与え、仕事や生活に支障をきたす状態を指します。

具体的な原因として以下があります。

  • 体臭
  • 口臭
  • 香水・柔軟剤の強い香り
  • タバコの臭い

近年、柔軟剤の香りでアレルギーを起こす人もいるため、良い香りだから大丈夫と油断しないことです。

アカデミックハラスメント

アカデミックハラスメント(アカハラ)とは、大学や研究機関などの教育・研究機関において、教職員が教育・研究上の権力を濫用し、学生や他の教職員に対して、不適切または不当な言動をすることを指します。

具体的に、学生に対してのアカハラは以下のような行為が該当します。

  • 研究指導における不当な要求
  • 進路妨害
  • 暴言やパワーハラスメント
  • 性的な嫌がらせ

教職員に対するアカハラとしては以下です。

  • 昇進・昇格差別
  • 研究活動への妨害
  • 職場いじめ

パワーハラスメントやセクシャルハラスメントとの違いは、ハラスメントが起こる場が、職場か教育の場かの違いです。

ハラスメントハラスメント

ハラスメントハラスメント(ハラハラ)とは、企業がハラスメント対策に注力していることを逆手に取った嫌がらせを指します。そもそも正当な行為であるにもかかわらず「ハラスメントだ」と主張し、相手を困らせる行為です。

具体的には以下のような状態です。

  • 仕事中の態度が悪かったので注意したら「ハラスメントだ」と訴えられた
  • 世間話のつもりで「お子さんいくつだっけ?」と聞いたらプライバシーの侵害だと訴えられた
  • 食事会に誘ったら「セクハラ」だと訴えられた

ハラハラを防止するためには、企業内でハラスメントの定義をしっかり決めておくことが重要です。

ハラスメントに関する法律の改正

2022年4月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました。この改正により、事業主はハラスメント防止のための措置を講じることが義務化され、対象は中小事業主にも広がりました。その詳細について詳しく解説します。

パワーハラスメント防止措置が義務化

2019年に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等」の一部と「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(以下「労働施策総合推進法」という。)が改正され、職場におけるパワーハラスメントおよびセクシャルハラスメント防止対策が事業主に義務付けられました。

ハラスメントを防止することで、働く人々の能力を十分に発揮できる環境を整えられます。社内規定の整備、相談窓口の設置、啓蒙研修など、適切な対策が企業に求められているのです。

雇用管理上の措置義務は中小事業主も対象

2022年4月からパワーハラスメント防止措置が全企業に義務化されました。改正前は、大企業のみだったのに対し、中小事業主も含めたすべての事業主が対象となっています。

対象の中小企業は①または②のいずれかを満たすもの

業種②資本金額または出資総額②常時使用する従業員数
小売業5,000万円以下50人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
卸売業1億円以下100人以下
その他業種3億円以下300人以下

具体的には、以下の措置を講じる必要があります。

  • ハラスメント防止方針の策定及び周知・徹底
  • 相談体制の整備
  • 事実調査及び適切な措置
  • 再発防止措置

事業主は、適切な体制づくりに取り組みましょう。

ハラスメントに関する規定の変更について

ハラスメントに関する規定の変更がつぎつぎと行われています。その対象となった法律は以下です。

労災認定基準の改正においては「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」が改正され、パワハラに関する項目が追加されました。2023年9月には、パワハラに関する6類型すべての具体例が追加され、性的指向・性自認に関する精神的攻撃なども明記されています。

企業が取り組むべきハラスメント防止対策や対処法

厚生労働省が企業に推奨している防止対策の具体例は以下のとおりです。

  • 防止のための基本方針を明確化する
  • ハラスメントに関する研修や啓蒙活動をする
  • 相談窓口を設置する
  • 相談への適切な対応をする
  • 被害者に対する適切な配慮をする
  • 行為者に対する適切な措置を取る
  • 再発防止措置を実施する

それぞれ詳しく見ていきましょう。

防止のための基本方針を明確化する

ハラスメントに対する事業主の方針を規定し、就業規則や行動マニュアルなどを作成します。決定した内容は、社内報・パンフレット・社内ホームページなどに掲載し、ハラスメントに関する企業のスタンスを全社員と共有しましょう。

ハラスメントに関する研修や啓蒙活動をする

ハラスメントをおこなったものには厳正に対処すると定め、文章で明言します。また、管理監督者を含む労働者全体に研修をおこない、啓蒙活動に取り組んでいきましょう。

相談窓口を設置する

ハラスメントの相談窓口を設置し、専任の担当者を定めます。相談があった際には、しっかり対応できるよう制度を整えましょう。リソースがない場合は、外部機関に委託するのもひとつの方法です。

相談への適切な対応をする

窓口や規則が形がい化しないよう、相談に対して適切に対応する必要があります。相談した結果、かえって事態が悪化しないよう二次被害防止の対策も必要です。

被害者に対する適切な配慮をする

被害者が心的ストレスを感じないよう、適切な配慮をします。行為者に謝罪させる、労働条件で不利益を感じさせないなど。管理監督者または保健スタッフに対しては、適切に相談対応できるための教育が必要です。

行為者に対する適正な措置を取る

行為者に対して、懲戒やその他の措置を適切に講じましょう。注意だけだと根本的な問題解決にはなりません。場合によっては、減給、出勤停止、異動や配置転換なども必要です。

再発防止措置を実施する

企業方針を労働者に周知させ、啓発・啓蒙することで再発防止に努めましょう。社内報、パンフレット、社内ホームページなどによる広報活動、啓発研修や講習など、地道な活動が重要です。

まとめ

今やハラスメントは、社会問題となっており、2022年4月からパワーハラスメント防止措置がすべての事業主に義務化されています。職場でのハラスメントを防ぐために、広報や研修による適切な啓蒙活動は必須です。事業主は、法を遵守し、ハラスメントのない職場環境づくりに努めましょう。

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