人材開発・教育
2024.08.14
リスキリングとは? DX時代に注目される人事戦略や育成補法、導入事例を紹介
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「リスキリング」はDX時代の競争力確保・雇用の維持を背景に注目されるようになった言葉です。この記事では、リスキリングの意味やその重要性、「リカレント教育」との違いなどについて解説したうえで、リスキリング導入のためのプロセスを紹介します。ぜひ参考にしてください。
リスキリングとは?
リスキリング(Reskilling)とは、デジタル技術の進歩へ対応するために、社員が新しいスキルや知識を習得する学び直しのプロセスを指します。
デジタル技術の進歩は、企業の業務プロセスやビジネスモデルに大きな影響を与えています。AIやIoT、データ分析などの新しい技術の急速な普及により、これらに対応できるスキルが求められるようになりました。とくに昨今、コロナ禍でDXの推進が加速化されたことを受け、新たな技術や職場環境への適応が求められています。
日本政府も、リスキリングを推進しています。2022年の岸田首相の所信表明では、個人のリスキリング支援のために、5年で1兆円を投じるパッケージを打ち出しました。経済産業省、厚生労働省、文部科学省がリスキリングに関する多彩な制作を実施しており、助成金の制度も整いつつあります。
このようにリスキリングは、テクノロジーの進化や市場の変化に対応するために、企業が社員のスキルセットを更新する重要な手段となっています。また、デジタル分野に限らず、社員の学び直しにより、スキルを最新のものに保つことは、企業の競争力を維持、成長の促進に繋がります。
リスキリングの重要性
リスキリングの重要性は大きく2つにまとめられます。
- 市場の変化が与える影響
- 労働市場の競争の激化
それぞれ詳しく見ていきましょう。
市場の変化が与える影響
グローバル化や消費者のニーズの変化により、企業は柔軟に戦略を変えることを求められるようになりました。市場の変動に迅速に対応するためには、新しいスキルや知識を持った人材が不可欠です。たとえば、デジタルマーケティングやEコマースのスキルは、オンラインビジネスの拡大に伴い、ますます重要になってきています。
また、テクノロジーの進歩によって業務の自動化が進み、人がAIやロボットに代替される「技術的失業」への対策としてもリスキリングは重要です。DXに対応するための新しいデジタルスキルを身につけることで、企業は雇用を維持することが可能です。
労働市場の競争の激化
高度なスキルを持つ労働者の需要が高まり、優秀な人材を確保することへの競争が激化しています。とくに、少子高齢化により今後の人手不足が懸念される日本では、人材の確保が最優先です。内部人材のリスキリングは、この課題を解決するとともに、新たなスキルを持つ社員の存在は、外部からの採用に頼ることなく、企業内で必要な役割を確保することに繋がります。
リスキリングとリカレント教育の違い
人生100年時代と言われ、生涯学習や学び直しの需要が高まり、「リカレント教育」や「アップスキリング」という言葉も登場しています。これらとリスキリングは何が違うのか、解説します。
リスキリング
リスキリングは、前述のようにDXによるビジネスモデルの大きな変革を背景に、これまでとはまったく異なる業務へ対応するために、新しいスキルを獲得するプロセスを意味します。企業側の変化が起点となることもあり、企業が社員に対して教育を促すという点も重要です。
アップスキリング
すでに保有している個人の専門性、スキルをより強化するプロセスです。リスキリングが「新しいスキル」へ焦点を当てているのに対し、アップスキリングは「既存のスキル」向上が目的という違いがあります。
リカレント教育
個人が自分で必要と考えるスキルや知識を習得するためのプロセスです。学び直しそのものが目的であり、仕事と関係ない学びも含まれます。そのため、仕事を休職して大学院に通うなど、職場を離れて学ぶことも多いです。このような個人の学び直しを支援するために、長期休暇を取る「サバティカル休暇」という制度も注目されています。
リスキリングのメリット
リスキリングのメリットを以下の4つにまとめました。
- 企業の競争力強化
- 従業員エンゲージメント向上
- 労働力の柔軟性
- コスト削減
それぞれ詳しく見ていきましょう。
企業の競争力強化
新しいスキルを持った社員は、企業のイノベーションを促進し、競争力を高めます。たとえば、新しい技術を取り入れた製品開発や業務改善が促進され、市場での優位性確保に繋がります。
従業員エンゲージメント向上
リスキリングの機会を提供することは、社員のモチベーションやエンゲージメントアップになり、離職率の低下に繋がります。キャリア成長への期待は社員にとって、自分の将来に対する安心感と企業への忠誠心となります。
労働力の柔軟性
多様なスキルを持つ社員は、企業内での異動や新しいプロジェクトへの参加の可能性を広げ、組織全体の柔軟性向上に役立ちます。これにより、急な人員配置の変更やプロジェクトのニーズに迅速に対応できるようになります。
コスト削減
新たに外部から人材を採用するコストや、採用後のトレーニングコストを削減することができます。内部のリソースを活用することで、効率的に人材育成が行えます。また、外部の人材を採用することで生じがちな、企業文化や社風とのミスマッチも少ないというメリットもあります。
リスキリングのデメリット
メリットがある一方で、デメリットもあります。以下の3つにまとめました。
- 初期投資の必要性
- スキル習得に時間がかかる
- 定着率の不確実性
それぞれ詳しく見ていきましょう。
初期投資の必要性
リスキリングプログラムを導入するためには、教育プログラムの開発や実施、社員のトレーニングなどに初期投資が必要となります。とくに専門的なトレーニングや外部の講師を招くためのコストは避けられません。
スキル習得に時間がかかる
社員が新しいスキルを習得するには、当然ある程度の時間がかかります。その間、生産性が低下するリスクもあります。
定着率の不確実性
リスキリング後に社員が企業に留まるかどうかは保証されていません。スキルを習得した社員が他社に転職するリスクもあります。このため、リスキリングプログラムの効果を最大限に引き出すためには、社員の満足度を高め、企業に留まるインセンティブを提供することが求められます。
企業が取り組むべき具体的な施策
企業がリスキリングのために取り組むための施策を、以下の4つにまとめました。
- ニーズの特定
- 教育プログラムの開発
- 社員の参加促進
- 継続的な評価と改善
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ニーズの特定
企業の戦略や市場の動向に基づき、今後、どのようなスキルが必要になるかを明確にします。具体的には、経営戦略や技術ロードマップ、競合他社の動向などを参考にしながら、必要なスキルセットを定義していきます。
教育プログラムの開発
内部トレーニングの開発や外部教育機関との連携を通じて、社員が新しいスキルを効果的に習得できるプログラムを構築します。たとえば、社内講師によるトレーニングセッションや、オンライン学習プラットフォームを活用した自己学習プログラムなど、多様な学習方法を組み合わせることが重要です。
社員の参加促進
リスキリングプログラムへの参加を奨励するために、インセンティブ制度やキャリアパスの明確化を行います。たとえば、リスキリングプログラムを修了した社員には、給与の増加や昇進の機会を提供するなど、具体的なメリットを提示します。メリットの提示は社員のエンゲージメント向上にも繋がります。
継続的な評価と改善
リスキリングプログラムの効果を定期的に評価し、必要に応じて改善を行います。参加者のフィードバックや業務パフォーマンスの変化をモニタリングし、プログラムの内容や実施方法を見直します。
リスキリングの導入のための6つのステップ
リスキリングを実現させるための6ステップを紹介します。
- 現状分析とニーズの把握
- プログラムの設計
- リソースの確保
- 実施とモニタリング
- 成果の評価
- 継続的な改善
1.現状分析とニーズの把握
企業の戦略目標に照らし合わせて、業界のトレンドや将来のスキルニーズを予測し、必要なスキルセットを明確にします。この段階では、社内外の専門家やコンサルタントの意見を取り入れることが有効です。
2.プログラムの設計
ニーズの把握によって得られた情報を元に、教育プログラムを設計します。社内リソースを活用する方法や、外部の専門機関に依頼するなど、トレーニングの方法を検討します。同時に、プログラムの内容や期間、評価方法なども詳細に設計します。
3.リソースの確保
リスキリングプログラムの実施に必要なリソース(予算、講師、教材など)を確保します。社内のトレーニング担当者の確保も必要ですが、とくに専門的なスキルについては、外部の専門家や教育機関との連携が求められる場合もあります。
4.実施とモニタリング
プログラムを実施し、リスキリングの進捗をモニタリングします。習熟度の測定や定期的なフィードバックを行いつつ、必要に応じてプログラムを調整します。たとえば、学習の進捗に応じて追加サポートの提供やトレーニング内容の変更などが挙げられます。
5.成果の評価
プログラム終了後に成果を評価します。具体的には、習得したスキルが実際の業務にどの程度役立っているか、企業全体のパフォーマンスにどのような影響を与えたかなどを分析します。また、参加者のフィードバックを元にプログラムの改善点を洗い出します。
6.継続的な改善
リスキリングプログラムは一度実施して終わりではありません。業界の変化や技術の進展に対応するために、定期的にプログラムの内容を見直すなど、継続的に改善を行うことが重要です。プログラムの効果を最大化するために、社員のニーズやフィードバックを反映させることが求められます。
リスキリングの導入事例
リスキリングを導入している大手企業を紹介します。
IBMの場合
IBMでは、急速に変化する技術環境に対応するため、大規模なリスキリングプログラムを実施しています。
2019年には「New Collar Jobs Initiative」と呼ばれるプログラムを発表しました。このプログラムでは大学卒業者だけでなく、高度な技術スキルを持たない人々も含め、未来の仕事に必要なスキルを身につける機会を提供しています。
社員にデータ分析、クラウドコンピューティング、人工知能などの分野でスキルを習得するためのトレーニングを提供し、社員のキャリアパスをサポートしています。
参照:IBM
富士通の場合
富士通は、DX推進の一環としてリスキリングに重点を置いています。
これにより、2025年度までに1万人規模のコンサルティング人材を育成する計画です。リスキリングプログラムでは、社員が新しいスキルを習得し、キャリアアップを図るための教育の場を設けています。
とくにデジタル技術の基礎知識から専門的なスキルまで幅広く学べる機会を設け、ジョブローテーションを実施することで、企業内でのキャリアパスを広げる支援をしています。
参照:富士通「コンサル人材の拡充とコンサルプラクティスの強化により、社会課題への取り組みを加速」
まとめ
リスキリングは、急速に変化するビジネス環境に対応するために、企業が社員のスキルを更新する重要なプロセスです。
リスキリングのニーズを明確にし、効果的なプログラムを設計・実施することで、変化する市場環境に適応し、持続的な成長を実現することができます。また、適切に設計・実施されたリスキリングプログラムは、企業の競争力を強化し、社員のモチベーションとエンゲージメントを向上させます。
しかしその一方で、初期投資やスキル習得への時間的コストが求められます。リスキリングを成功させるためには、継続的な評価と改善が不可欠です。