人事評価
2024.09.24
降格人事を実施するうえでの注意点や違法となるケース、降格人事の手順などをわかりやすく紹介
- #人事評価
- #降格人事
企業が社員に対して行う降格人事は、処罰としてだけでなく、組織の再編成や社員の能力に基づく適正配置の一環としても行われます。しかし、適切な手続きや法的根拠を欠いた降格は、社員とのトラブルに発展する可能性があるため、慎重な対応が求められます。この記事では降格人事を実施する上での注意点や違法となるケース、その進め方などを紹介します
降格人事とは
降格人事とは、社員の職位や役職を現在の地位よりも引き下げることを指します。たとえば、部長職にあった社員を課長に引き下げるなどの例が挙げられます。降格人事が行われた場合、対象の社員には一般的に以下のような変更が行われます。
職位の低下:管理職から一般職への降格など。
給与の減額:新しい職位に応じた給与体系への変更。
職務内容の変更:責任範囲の縮小や業務内容の変更。
降格はパフォーマンスの低下や規律違反が原因で行われることが多いですが、中には組織再編や業績不振に対応するために行われる場合もあります。また、日本の雇用制度においては解雇が難しいため、解雇の代替措置として降格が行われることもよく見られます。
降格人事の種類
降格人事には大きく分けて、「人事降格」と「懲戒処分」があります。どちらも社員に対する職務上の対応として用いられますが、それぞれの目的や適用状況、法的な扱いに違いがあります。以下で2つの違いを詳しく説明します。
人事降格
人事降格は、社員の役職や職位が現在のものよりも低いものに変更されることを指します。これは、企業が組織の再編成や業績の評価、または適材適所の配置を目的として行う場合があります。また、社員が自ら希望して役職を降りる自発的降格もこれに含まれます。
人事降格の中には「降職」と「降格」があります。どちらも職位や職務に関連する措置ですが、「降職」は現在の役職からより低い役職に引き下げられることで、通常は業務内容や責任も変更されます。一方、「降格」は必ずしも役職そのものが下がるわけではなく、同じ役職に留まる場合でも、責任範囲や職務内容が軽減されることを指します。
人事降格には法的な手続きが必要であり、また、社員の同意や十分な説明が求められます。降格が不当であると社員が主張する場合、法的な紛争に発展する可能性があるため、企業は慎重に対応する必要があります。
懲戒処分
懲戒処分は、社員が企業の規律や規則に違反した場合に行われる処分です。たとえば、パワハラやセクハラ、違法行為により会社に不利益を生じさせた場合、これに該当することがあります。懲戒処分は、企業の秩序を維持し、他の社員に対する警告として機能しますが、処分の基準において、企業はどのような行動が懲戒処分になるのかを就業規則に明確に記載しておく必要があります。
懲戒処分でもっとも重い処分として懲戒解雇があります。懲戒解雇の場合、即時解雇となり、退職金が支給されないこともあります。
懲戒処分を行うためには、他の社員との一貫性を持った処分であること、事前の調査や聴聞を行って社員に弁明の機会を与えること、違反の重大さに応じた処分であることなどが求められます。
降格人事における注意点
降格人事を行う際には、企業として法的なリスクを避け、社員との信頼関係を維持するために十分に注意する必要があります。以下に、注意すべき5つのポイントを詳しく説明します。
- 正当性の確保
- 同意の取得
- 手続きの文書化
- 法的リスクの確認
- モチベーションへの配慮
それぞれ詳しく見ていきましょう。
正当性の確保
降格を行うには、客観的かつ明確な理由が必要です。たとえば、業績の低下やスキル不足などの理由が正当であることを示すためには、評価記録や具体的な証拠が求められます。不当な理由での降格は、社員からの不満や法的トラブルを引き起こす可能性があるため、十分な根拠を持つことが大切です。
同意の取得
降格の対象となる社員と事前に協議を行い、その意見を聴取しましょう。これを通じて、降格の理由や内容を説明し、社員からの同意を得ることが望ましいです。同意が得られない場合でも、適切なプロセスを経たことを示すことができれば、後のトラブル回避に役立ちます。
手続きの文書化
降格の決定に至るプロセスや協議内容、理由などを文書化し、適切に記録しましょう。文書化は、後で発生する可能性のある法的な問題に対する証拠となり得ます。また、手続きの透明性を確保することで、社員の同意を得やすくなります。
法的リスクの確認
降格には法的リスクが伴います。とくに降格が不当と判断されると、対象の社員が訴訟を起こす可能性があります。そのため降格を行う前に労働法に精通した専門家からのアドバイスを受け、法的リスクを十分に検討することが重要です。
モチベーションへの配慮
降格によって社員のモチベーションが低下しないように配慮することも重要です。適切な説明やサポートを通じて、今後のキャリア形成における前向きな意義を理解してもらうことが求められます。たとえばスキルアップのための研修や新しい目標設定を行うことで、社員が再び前向きに業務に取り組める環境を整えることも大切です。
これらのポイントを適切に実施、管理することで、降格人事を円滑に進め、法的リスクを最小限に抑えることができます。
降格人事が違法と判断されたケース
企業が適切な手続きを踏まない場合や、社員の権利を侵害する場合、降格人事が違法と判断されることがあります。以下に、降格人事が違法と判断され、無効になったケースを3つ紹介します。
差別的な理由での降格
社員の性別、年齢、国籍、宗教などの差別的な理由に基づく場合は違法とされます。過去には女性社員が育児休暇から復帰した際に不当な理由で役職を下げられたケースがありましたが、裁判所は妊娠や出産、復職から1年以内の降格などの不利益な取り扱いは、男女雇用機会均等法などに違反するとして違法という判断を出しています。
参照:弁護士ドットコム
人事権の濫用にあたる降格
降格が人事権の範囲内であるとしても、人事権の濫用として降格人事が無効となるケースもあります。たとえば、指示に従い業務を十分に遂行していないことや連絡なく遅刻が多いことなどを理由に降格され、賃金も大きく減額されたという事例では、経営者としての裁量権は一方的な賃金減額の法的根拠とならないという理由から違法であると判断されました。
参照:弁護士法人兼六法律事務所
就労規則に規定がない降格
労働者が職能資格を取得することで賃金が決定されますが、職能資格制度では、一度得た能力が低下することは想定されていません。職能資格の引き下げやそれに伴う降格は、賃金の減額に繋がることが一般的です。そのため、就業規則に明確な規定がない場合には、個別に社員の同意を得る必要があります。たとえば、就業規則や労働協約に職能給の減額に関する規定がないにもかかわらず、職能資格の見直しを理由に一方的に降格が行われたとして、降格と職能給の減額は違法であると判断されました。
参照:人事労務alg.com
このように、日本の労働基準法や労働契約法は、社員に対する不当な降格を禁じており、これに反する降格は無効となる可能性があります。
降格人事の手順
降格人事を行う際には、適切な手続きを踏むことで法的リスクを回避し、社員との信頼関係を維持することが重要です。以下に、降格人事を行う手順を6段階に分けて説明します。
- 理由の明確化
- 就業規則や労働契約の確認
- 社員との事前協議
- 書面による通知
- 労働組合への通知
- アフターフォロー
1. 理由の明確化
降格を検討するにあたって、まずは社員の業績や能力に関する客観的な評価を行い、降格の理由を明確にする必要があります。この評価には、業績データ、上司や同僚からのフィードバック、具体的な業務上の問題点などが含まれます。
2. 就業規則や労働契約の確認
降格を行う前に、就業規則や労働契約に降格に関する規定があるかを確認します。これらの規定がない場合や不明確な場合には、降格を行う根拠が不足しているとみなされる可能性があるため、慎重な対応が求められます。
3. 社員との事前協議
社員に対して降格の理由を説明し、協議の場を設けます。協議においては降格の内容や影響について十分に説明し、社員の理解を得ることが重要です。また、可能な限り社員の同意を得るよう努めます。
4. 書面による通知
降格が決定された場合は、その内容を文書化し、社員に正式に通知します。通知書には、降格の理由や降格後の職位、新たな業務内容、給与の変更などが具体的に記載されている必要があります。
5. 労働組合への通知
企業内に労働組合が存在する場合や、労働者代表がいる場合は、必要に応じて降格の決定内容をこれらの団体にも通知し、協議を行います。とくに組織再編による降格の場合は、事前に労働組合の合意を得ることが重要です。
6. アフターフォロー
降格後の社員に対しては、必要に応じて支援を行います。これは、モチベーション維持や新しい役職での適応をサポートするものです。また、定期的なフィードバックを通じて降格後の業務を評価することも大切です。
降格人事は、適切な手続きを踏まなければ、法的リスクや社員の不満を引き起こす可能性があります。これらの手順をしっかりと守り、透明性のあるプロセスを実施することで、企業としての信頼性を維持しつつ、円滑に降格を進めることができます。
まとめ
降格人事は、企業の運営において避けられない場合もありますが、慎重に対応することが求められます。社員との協議を怠らず、法的な要件を満たすことで、トラブルを未然に防ぐことが可能です。企業としては、降格が適正に行われるよう、明確なポリシーと手続きを整備しておくことが求められるでしょう。