人材開発・教育
2025.04.08
インクルージョンとは? ダイバーシティとの違いや推進のメリット・課題を解説
- #エンゲージメント向上
- #職場環境

インクルージョンとは、多様性が尊重され、すべての社員が活躍できる状態を指します。近年、人材不足や価値観の多様化などを背景に、インクルージョンを推進する企業が増えてきました。
この記事では、インクルージョンとダイバーシティとの違いや、インクルージョンを推進するメリット、具体的な施策などを解説します。
インクルージョンとは
インクルージョン(inclusion)とは、「包含」「包括」といった意味の語で、ビジネスシーンでは、企業活動において、社内で働くすべての人が尊重され、それぞれが能力を発揮できている状態を指す言葉として用いられます。
「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」というように、インクルージョンはダイバーシティという言葉と一緒に使われることが少なくありません。
ここでは、インクルージョンとダイバーシティの違いや、インクルージョンが注目される背景を解説します。
ダイバーシティとの違い
ダイバーシティ(diversity)とは「多様性」という意味で、ビジネスシーンでは、年齢や性別、国籍といった属性や背景、価値観がさまざまに異なる人材が集まっている状態を指します。
ダイバーシティは多様性を認めることであり、インクルージョンは、それら多様な人材が能力を発揮して活躍している状態のことです。
近年は、この2つを合わせた「ダイバーシティ&インクルージョン」をビジョンに掲げる企業が多く見られます。多様性を受け入れ、すべての人材が自分らしく活躍できる組織を目指すというという考え方であり、実際に取り組みを行う企業も増えてきました。
インクルージョンが注目される背景
インクルージョンが多くの企業に注目されるようになった背景には、少子高齢化による労働人口の減少が挙げられます。人手不足を解消するためには、多様な人材が活躍できる環境づくりが必要になるためです。
価値観や消費ニーズの多様化も、インクルージョンが注目される背景のひとつです。多様な人材が働く企業で、異なる視点からのアイデアを出し合うことにより、新たなビジネスの創造につながります。
インクルージョンを推進するメリット
企業活動においてインクルージョンの考え方を導入し推進することには、次のようなメリットがあります。
- 優秀な人材を獲得できる
- 社員のエンゲージメントが高まる
- 企業イメージの向上につながる
それぞれ、詳しく解説します。
優秀な人材を獲得できる
インクルージョンを推進して多様な人材が活躍できる環境を整備することは、優秀な人材の確保につながります。さまざまな価値観を持つ人が等しく尊重され、活躍できる場が提供される職場は魅力的であり、求職者の関心を呼ぶでしょう。
また、実力を発揮できて働きがいがある環境は社員が定着しやすく、離職率の低下にもつながります。
社員のエンゲージメントが高まる
インクルージョンの推進においては、多様な人材が活躍できる職場づくりが必要です。施策のひとつである適材適所の人員配置が行われれば、社員は自分の能力を発揮しやすくなります。
その結果、仕事へのモチベーションが高まり、会社に対する信頼も高まるでしょう。会社への愛着心や貢献意欲といったエンゲージメントが高まることで、生産性の向上にもつながります。
企業イメージの向上につながる
インクルージョンを推進し社員の多様性を尊重している企業は、外部からのイメージも高まります。ブランディングにつながり、市場での優位性を獲得できるでしょう。
イメージが向上することで、企業は顧客・消費者から選ばれやすくなり、収益の安定化につながります。他社の商品やサービスとの差別化もできるでしょう。
社会的に高く評価されている企業に対し、社員の帰属意識や愛着心も高まり、さらなるエンゲージメント向上につながります。
インクルージョンを推進する際の課題
インクルージョンの推進には、メリットばかりではなく、乗り越えるべき課題もあります。
ここでは、インクルージョンを推進する際に把握しておくべき課題を解説します。
社員の理解が得られない場合がある
インクルージョンを推進する際は、組織の人員や体制が大きく変わるため、社員の理解や意識改革が求められます。
古くからの文化が根づいている企業では、新しい体制に対して抵抗が生まれることも予想され、理解を得るのが難しい場合もあるでしょう。多様性を受け入れる理由や重要性を丁寧に説明し、理解を得る努力をすることが必要になるでしょう。
制度・ルールの整備が必要になる
インクルージョンを社内に根づかせるには、理念や目標を掲げるだけでは不十分であり、制度やルールを整備することが必要です。
整備する制度の一例としては、リモートワークや時短勤務といった多様な働き方の採用や、男性社員の育児休暇取得の促進などが挙げられます。外国人を採用する企業では、社員同士のコミュニケーションに関するサポート体制を設けることも必要となるでしょう。
制度について社員の理解を得て浸透させるためには、さまざまな施策が必要になり、一定の時間がかかることも認識しておきたい点です。新しい制度やルール、施策などの導入や実施は会社全体で取り組み、中長期的な視野で、継続的に行うことが求められます。
進捗や成果を数値化しにくい
インクルージョンの推進は、進捗や成果が目に見えにくい点が課題です。
多様性を意味するダイバーシティであれば、「全社員の〇%が外国人」といった数値で表すことができ、目標の達成度がわかります。
一方、インクルージョンが浸透している状態とは、社員一人ひとりが安心して仕事に取り組み、活躍できていることです。数値化しにくく、達成度が明確になりません。
そのため、こまめに社内アンケートや従業員満足度(ES:Employee Satisfaction)調査を実施したり、個別面談を行ったりして、どの程度浸透しているかを確認する必要があります。
インクルージョンを推進する際のポイント
インクルージョンの推進には、経営陣が先陣を切って取り組むことや社員の意識変革を行うことなどが求められます。
ここでは、インクルージョンを推進する際に押さえるべきポイントを解説します。
経営陣が先陣を切る
インクルージョンの推進には、経営陣が改革意識を持ち、率先して体制を構築することが欠かせません。経営陣が先導することで、インクルージョンが全社的な取り組みとなるためです。
まず、ビジョンや経営方針を策定し、部門を横断した推進チームを作ります。経営陣とチームが連携をとり、制度・ルールを制定して環境を整備しつつ、施策の策定・実施を行っていくことが必要になるでしょう。
特定の人を優遇する制度を設ける必要はない
インクルージョンの推進においては、多様性を受け入れることは特定の個性を優遇することではないという点にも注意する必要があります。すべての社員が活躍できる状態を作り出すことがインクルージョンの考え方であり、特定の人に着目した制度を設けることではありません。
誰もが尊重され、享受できる制度・施策を策定することが大切です。
社員の意識改革を支援する
インクルージョンの実現のためには、社員一人ひとりの意識改革も必要です。
人は誰しも、「アンコンシャス・バイアス」と呼ばれる無意識の思い込みや偏見、偏ったものの見方を持っているものです。多様性を受け入れるには、そのことに対する気づきや問題意識があることが大切です。社員研修や外部セミナーなどを通して時間をかけた意識改革を行い、インクルージョンを浸透させましょう。
また、社員の意識改革と行動変容を支援するためには、現場を指揮する管理職の育成・教育も欠かせません。
進捗を確認し、継続的に改善していく
インクルージョンの施策は成果が目に見えにくいため、進捗を確認するには社員の声を細かく拾い上げる作業が必要です。社内アンケートやヒアリング、面談などを継続的に行ったり、意見交換の場を設けたりするとよいでしょう。進捗を確認しながら施策を改善し、継続的に取り組むことが、インクルージョンの浸透を加速させます。
インクルージョンを推進する具体的な施策
インクルージョンを推進するための具体的な施策には、次の3つが挙げられます。
- 適材適所の人材配置を行う
- 研修やセミナーを開催する
- イベントを実施する
それぞれ、詳しく解説します。
適材適所の人材配置を行う
インクルージョンを推進する上では、適材適所の人材配置が欠かせません。社員一人ひとりの経験やキャリアを尊重した配置を行うことは、多様性を尊重し、すべての社員が活躍できる場を作るというインクルージョンの目的に合致します。
適材適所の配置により、それぞれが実力を発揮でき、活躍できる機会が増えるでしょう。社員は自分の能力が組織の中で活かせていると実感できることで、モチベーションも高まります。
適材適所を実現するためには、自社の状況を確認するとともに、社員の個性やスキル、キャリアプランを理解することが必要です。
研修やセミナーを開催する
社員のインクルージョンへの理解を深め、意識変革を支援するためには、研修やセミナーの開催が適しています。インクルージョンの推進に特化した研修・セミナーのほか、次のような研修・セミナーもインクルージョンの推進に役立ちます。
- キャリア研修
- マネジメント研修
- LGBTをテーマとした研修
キャリア研修は多様なキャリアへの理解を促し、自身のキャリア形成にも役立ちます。マネジメント研修では、多様な人材と関わる際のスキルを身につけることができるでしょう。LGBTをテーマにした研修では、LGBTへの理解と適切な対応を学ぶことができます。
イベントを実施する
社員のインクルージョンへの理解を促すためには、イベントの開催も効果的です。イベントを通して、社員に会社が取り組むインクルージョンの目的や考え方を伝えることができます。また、参加した社員同士の交流により、お互いを理解し尊重することにもつながるでしょう。
インクルージョン推進のイベントとしては、次のものが挙げられます。
- ランチ会
- ディスカッション
- ワークショップ
社員同士が立場や年齢、性別などに関係なく交流し、自由に意見を言える機会を多く設けることが、インクルージョンの浸透につながります。
まとめ
インクルージョンの推進により、社員一人ひとりが実力を発揮し、モチベーションを高めて働くことのできる環境が作られます。社員のエンゲージメントが高まることで離職を防止でき、優秀な人材の確保にもつながるでしょう。また、インクルージョンに取り組むことで企業イメージが向上し、競争力の強化にも役立ちます。
この実現には、制度・ルールの整備と社員の意識変革が求められます。社員の理解を得たり支援したりするための取り組みも行い、中長期的な視点で継続的に取り組んでいきましょう。

この記事を担当した人
PeopleX コンテンツグループ
人事・労務・採用・人材開発・評価・エンプロイーサクセス等についての用語をわかりやすく解説いたします。
これまでに出版レーベル「PeopleX Book」の立ち上げ、書籍『エンプロイーサクセス 社員が成功するための7つの指針』の企画・編集、PeopleX発信のホワイトペーパーの企画・編集などを担当しました。
- 株式会社PeopleXについて
- エンプロイーサクセスHRプラットフォーム「PeopleWork」の開発・運営をはじめとした、新しい時代に適合したHR事業を幅広く展開する総合HRカンパニーです。