人事戦略
2025.03.06
多能工とは? メリット・デメリット、取り組み事例を紹介
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多能工は1人で複数の業務を担うことができる社員のことであり、多能工の育成により人手不足の解消や特定の社員だけに業務負担がかかる状態を回避できます。組織のチームワークを高められることもメリットです。
この記事では、多能工の意味や求められる理由、多能工化の手順などを解説します。
多能工とは
多能工とは、複数のスキルや能力を持ち、さまざまな役割を担う人のことです。マルチタスクやマルチスキルとも呼ばれます。ここでは、多能工と単能工との違いや、多能工が求められる理由について解説します。
単能工との違い
1人で複数の業務を担当する多能工に対し、単能工とは、1人の社員が1つの業務を担当することを指します。建設業や製造業の現場では、単能工ではなく多能工が重視されてきました。
これらの業種では完成までに複数の工程があり、工程によって作業量やスピードに差があります。単能工しかいない職場では、忙しい社員とそうでない社員が発生し、生産性が下がるという問題がありました。そのため、1人で複数の工程を担当できる多能工を増やし、業務の無駄をなくすことが必要とされてきた経緯があります。
近年は、このような多能工を必要とする考え方が他業界にも広がっており、1人の社員が複数の業務を担えるように教育・育成する多能工化が求められています。
多能工が求められる理由
多能工が求められるのは、働き方改革の推進や労働力人口の減少により、人手不足への対応が必要とされているためです。1人で複数の業務に対応できる多能工が増えれば、人材を効率的に活用することができ、人手不足の解消につながります。
また、多能工化により属人化を防止できる点も、多能工が求められる理由です。1人の社員が1つの業務を担当する単能工では業務が属人化しやすく、担当者以外は業務の詳細を把握できないという問題が発生します。
しかし、多能工が増えることで特定の社員にしかできない業務を減らすことができ、属人化の解消につながります。
多能工のメリット
社内に多能工を育成することには、次のようなメリットがあります。
- 業務負荷を均等にできる
- 柔軟性の高い人材配置ができる
- チームワークを高められる
ここでは、多能工化によるメリットを解説します。
業務負荷を均等にできる
多能工化を実現すると、それぞれの社員が幅広い業務を担えるようになります。そのため、業務の負荷を均等にできることがメリットです。単能工の場合は業務が属人化しやすく、特定の社員だけに業務負担がかかる状態が起こりやすくなります。
多能工化を進めれば、業務負荷が高い社員の業務をほかの社員に対応してもらうことができ、繁忙期や不測の事態などで発生する業務の偏りも防止できます。
柔軟性の高い人材配置ができる
多能工化により、状況に合わせて柔軟な人材配置ができるのもメリットです。業務の進捗や社員のスキルに応じて、人材を効率的に活用できます。
他部署が多忙で人手が不足したときも、柔軟に応援人員を配置できます。残業量に偏りがある場合も、迅速に業務量を調整することが可能です。
状況に合わせて柔軟に対応できる組織になることで、生産性も高まるでしょう。
チームワークを高められる
多能工化が進むことで、チームワークの向上につながることもメリットです。多能工は幅広い業務に携わることから、社員同士の交流が広がるでしょう。コミュニケーションの活性化により、社内全体のチームワークが強化されます。
また、多能工は複数の業務に関わり、一人ひとりが多くの部署と接点を持つようになります。他業務への理解を深め、多角的な視野を獲得することもできます。
多能工のデメリット
多能工の育成には、デメリットもあります。育成には時間やコストがかかり、社員の負担が増える点です。多能工のデメリットを見ていきましょう。
育成に時間やコストがかかる
多能工は複数の業務を担当するため、その育成には通常よりも多くの時間と教育コストがかかります。すでに身につけたスキルに加え、新たな業務スキルを研修やOJTなどで習得し、実務で仕事をこなせるレベルになるまでには、より多くの時間が必要になるでしょう。
会社は定期的に教育の機会を提供し、一時的には生産性が落ちる可能性も認識しつつ、長期的視野による教育を行うことが求められます。
社員の負担が増える
多能工の育成は、社員の負担が増えることもデメリットです。社員は通常業務と並行して、新たな業務スキルを習得するため、研修などの教育を受けることになります。自己学習が必要になることもあるでしょう。社員が教育を担当する場合、教育する側と教えられる側の双方に負担が増えることになります。
また、社員の理解を得ず、会社側の都合だけで多くの業務を担当させることは、モチベーションを低下させるおそれがあるでしょう。多能工を育成する趣旨を伝え、十分な理解を得ることが大切です。
多能工化の手順
多能工の育成は、次の手順で行います。
- 業務を洗い出す
- マニュアル・手順書を作成する
- 育成計画を策定する
- 振り返り・改善を行う
ここでは、それぞれのプロセスについて解説します。
業務を洗い出す
まず、社員が行っている業務内容や業務量、保有スキルを洗い出します。業務は、ほかの社員に任せられる業務と、任せられない業務に分類しておきましょう。
スキルは、それぞれ次のようなレベルを設定します。
- 1人ではできないが業務への理解はある
- 時間はかかるが1人で作業できる
- 業務を理解し、1人で作業できる
- 作業を熟知している
スキルマップを作成し、可視化すると全体を把握しやすいでしょう。
マニュアル・手順書を作成する
業務スキルの習得を効率化・標準化するために、マニュアル・手順書を作成します。マニュアルがあることで、教育の手間を削減できます。
作成する際に重要なことは、図表などを使い、誰が見てもすぐに理解できるようにすることです。文字のみで構成されていたり、専門用語ばかりを使っていたりすると、内容の理解が難しくなり、教育効果の期待が薄まります。ツールも活用しながら、わかりやすいマニュアルを作成しましょう。
育成計画を策定する
多能工の育成には、育成計画の策定が必要です。洗い出した業務やスキルをもとに、設定した目標に沿って育成計画を作ります。繰り返しになりますが、多能工の育成には社員の理解が不可欠です。策定した育成計画のもとでどのような業務スキルを習得してもらうか、社員の意思を確認し、同意を得て進めましょう。
多能工育成の目的は、全社的に共有することも大切です。多能工の必要性・重要性を理解してもらうことで、多能工化に向けて全社員の意識を統一できるでしょう。
振り返り・改善を行う
育成の開始後は、進捗状況について振り返りと改善を行います。1on1ミーティングなど定期的な面談の場を設け、ヒアリングしながら多能工化の状況を確認します。
面談では、複数の業務を行うことに負担はないか、モチベーションは保たれているかなどの確認も必要です。業務が合わない場合は担当を変えるなど、柔軟な対応も必要になるでしょう。
多能工化を成功させるポイント
多能工化を成功させるためには、押さえたいポイントがあります。それぞれ見ていきましょう。
適性や能力を適切に把握する
多能工の育成においては、社員の適性や能力を適切に把握し、それに合った役割を割り当てることが大切です。会社側の判断だけで進めると、社員のモチベーションを低下させるおそれがあります。
モチベーションが下がった状態で業務スキルを習得しても、業務の効率化にはつながらず、多能工化の目的を達成できません。かえって生産性を下げる結果にもなるでしょう。
適性テストを行ったり、社員の意向を確認したりしながら、適性を正確に把握して多能工化を推進してください。
十分な教育期間を設ける
多能工の育成は短期間ではできず、十分な教育期間を設けることが大切です。習得を急いで育成計画を短期間のものとしてしまうと、業務を担えるまでにならないおそれがあるばかりか、社員の負担となってモチベーションを下げることにもなりかねません。
十分な時間をかけ、通常業務への支障にならないよう、余裕をもったスケジュールで計画を立てることが大切です。
多能工化に必要な期間は、業務内容によって異なります。数ヶ月で即戦力になれる場合もあれば、1年以上かかる場合もあるでしょう。業務内容ごとに、適切な教育期間を設定しましょう。
適切な業務量を見極める
複数の業務を担う多能工は、業務量が多くなりがちです。スキルの高い社員ほど、多くの業務を抱える可能性があります。社員の能力に偏りがある場合、優秀な社員に頼りすぎて過剰な負荷やストレスを与えないよう、注意が必要です。
上司は社員と定期的にコミュニケーションをとり、業務量が適切かどうかを確認し調整するなどのマネジメントが必要になるでしょう。
人事評価制度を見直す
多能工化により社員は複数の業務を担うため、人事評価制度の見直しも必要です。多能工化を進める前の評価制度のままでは、社員が複数の仕事を兼務することとなった場合、すべての業務内容が適切に評価されない可能性があります。
多能工を評価する際は、幅広い知識やスキルで複数の業務にあたっていることを評価する、明確な基準が必要です。いかなる業務を担当していても、正当な評価を受けられるような制度の構築が求められます。
企業の取り組み事例
多能工化を成功させた具体例として、2社の取り組み事例を見てみましょう。
ハウスメーカーの事例
トヨタホーム株式会社では、多能工育成の取り組みとして、「技能向上競技会」を開催しています。技能向上競技会では、サッシの組み付けなどに携わるライン従事者が、溶接・物流・木工・配線作業をこなす電気・外壁の5部門で競います。
家造りに必要な一連の作業をできるようにするため、自動化が進んでいる今日でも手作業にこだわり、多能工化に向けた人材育成を行っています。
参照:トヨタホーム株式会社
参照:日本経済新聞電子版
ホテル業の事例
ホテル業を営む星野リゾートは、ホテル業界ではめずらしく、多能工化を実現している会社です。社員全員がフロントサービス、レストランサービス、客室清掃、調理を担えるようにする育成が行われています。
1人のスタッフが複数の業務を担い、顧客との接点を増やすことで、顧客満足度の向上と利益を両立させる働き方を実現しています。
参照:星野リゾート
まとめ
多能工は1人で複数の業務に対応できる社員を指し、働き方改革の推進や人手不足解消のために注目する企業も増えています。
多能工の育成により社員の業務負荷を均等化し、柔軟性の高い人材配置と組織作りができることがメリットです。
多能工を育成する際は、社員の適性や能力を適切に把握し、十分な教育期間をとり、余裕のあるスケジュールで対応しましょう。