人事戦略
2024.09.24
報酬サーベイ(報酬調査サービス)とは? 注目されるようになった背景や導入の注意点などを紹介
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報酬サーベイとは?
報酬サーベイ(報酬調査サービス)とは、役員や社員の報酬水準の分析・調査を行う人事データリサーチサービスのことです。
企業はこのデータをもとに競争力のある報酬体系を構築し、優秀な人材を確保・維持することを目指します。報酬サーベイの大手企業として、マーサー、コーン・フェリー、ウィリス・タワーズワトソン、エーオンなどが知られています。国内企業としてはデロイトトーマツなどが有名です。
海外では主流の報酬サーベイですが、日本で知られるようになったのはつい最近です。日本で流行しなかった理由として、伝統的な年功序列や終身雇用制度、企業内労働組合の存在が影響しています。これらの制度では、給与が個人の業績よりも年齢や勤続年数で決まるため、市場に基づく報酬調査の必要性が低かったからです。また、日本では給与情報の透明性が低く、企業間での給与比較が難しかったことも一因です。
しかし昨今では、さまざまな社会的要因から、国内においても報酬サーベイが注目されるようになりました。
報酬サーベイの調査対象
報酬サーベイでは、以下のようなデータを収集します。
基本給:報酬制度に紐づいた基本給の平均値や中央値。
インセンティブとボーナス:業績や個人の成果に連動した報酬やその他の追加手当。
非金銭的報酬:健康保険、退職金、休暇、福利厚生など。
調査は通常、業界、地域、会社規模ごとにデータを分けて収集し、各ポジションに対する適正な給与水準を評価します。
報酬サーベイが注目され始めた背景
報酬サーベイが注目されるようになった背景には、いくつかの社会的および経済的な要因が影響しています。以下に、報酬サーベイの普及に影響を与えた要因を3つ紹介します。
- グローバル化と競争力の強化
- 働き方改革と人材の流動性
- 賃金の公平性や透明性への関心の高まり
それぞれ詳しく見ていきましょう。
グローバル化と競争力の強化
国際的な競争が激化する中で、企業は展開先の国ごとの給与水準や報酬体系を理解し、自社の報酬が市場と競争力のあるものかどうかを評価する必要性が高まりました。これにより報酬サーベイが国際市場での優位性を確保するための重要なツールとして注目されるようになりました。
働き方改革と人材の流動性
日本では働き方改革の推進や人材の流動性が高まったことも報酬サーベイの注目度を上げる要因となりました。従業員が転職しやすくなったことで、企業は市場水準と競争力のある報酬を提供する必要が生じました。その結果、報酬サーベイが一層重要視されるようになりました。
賃金の公平性や透明性への関心の高まり
働き方改革や同一労働同一賃金の導入など、政府による労働環境改善の取り組みが進む中で、賃金の公平性や透明性に対する関心が高まっています。その中で企業は自社の賃金水準が市場の標準と比較し、どのような位置にあるかを把握するため、報酬サーベイなどのデータを活用するようになりました。
これらの要因により、報酬サーベイは企業戦略の重要な一部として広く注目されるようになりました。
日本総報酬サーベイ
2023年11月、報酬サーベイのグローバル大手企業であるマーサーの日本法人であるマーサージャパン株式会社により、日本における報酬の市場調査「日本総報酬サーベイ(Total Remuneration Survey)」のレポートが発表されました。
今回の調査の参加企業数は1,237社(昨年1,021社)、うち日系企業は前年比149社増の579社となり、日本国内における報酬サーベイとしては過去最大となりました。これにより、日本国内の企業が提供する報酬水準に関する最新のデータが明らかになりました。
サーベイ結果によると、日系企業における管理職の賞与込み年収が上昇傾向にある一方、外資系企業と比較して依然として報酬水準が低いことが明らかになりました。
とくに管理職層での報酬差が顕著であり、入社1-3年目の比較的若手の層においても、法務やプロジェクトマネジメントの専門職種では、全職種の中央値に対して10%以上の報酬差が明らかになりました。この差が優秀な人材の流出リスクを高める要因になるとの意見も見られます。
この状況は、日系企業にとって競争力強化のために報酬戦略の見直しが急務であることを示しています。とくにグローバル競争が激化する中で、優秀な人材を確保し続けるためには、外資系企業に対抗できる報酬パッケージの提供が求められています。
また、今回の調査結果は、日系企業が報酬戦略を再評価し、必要に応じて修正を加えるべきであることを強調しています。報酬だけでなく、福利厚生やキャリアパスの明確化など、総合的な報酬パッケージの充実が、企業の魅力を高めるための重要な要素となります。
参照:PRTIMES
報酬サーベイ導入の5ステップ
報酬サーベイは、単にデータを得ることが目的ではありません。それを正しく活用することが求められます。以下に、報酬サーベイを導入する上で大切になるステップを5段階に分けて紹介します。
- 目的の明確化
- 報酬サーベイの選定
- 社内データの整理
- デ ータ収集・分析
- 報酬の見直しとフィードバック
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 目的の明確化
報酬サーベイを利用する目的を明確化します。たとえば「市場平均と比較して自社の報酬が競争力を持っているかを確認したい」や「業界標準に合わせて給与体系を調整したい」などの具体的な目的を設定し、報酬サーベイの方向性を決めることが大切です。
2. 報酬サーベイの選定
目的が定まったら、それに順応したサービスを選定します。たとえば国内市場をターゲットにする場合は国内の業界別サーベイが適していますが、多国籍企業なら「マーサーの総報酬サーベイ(TRS)」などを選ぶことで、グローバルな視点での報酬戦略を立てやすくなります。
3. 社内データの整理
自社の給与データ、役職情報、職務内容などを整理し、報酬サーベイに対応させます。職務ごとの役割や責任を明確にし、外部のデータと比較できるようにします。
4. データ収集・分析
選定した報酬サーベイに自社の役職ごとの給与、ボーナス、福利厚生などのデータを提出し、比較データを得ます。これにより業界内における自社の位置づけを確認し、自社の給与水準が適正かどうかを判断します。たとえば、自社のエンジニア職の給与が市場の下位に位置している場合、調整の必要があることがわかります。
5. 報酬の見直しとフィードバック
データ分析に基づき、必要に応じて給与や福利厚生の調整を行います。また、新しい報酬形態を定期的にフィードバックし、さらなる改善点を洗い出すことも重要です。これにより、次回のサーベイ導入に向けてより良い計画が立てられるようになります。
報酬サーベイは、単にデータを得るだけでは不十分です。得られたデータを実際の報酬戦略に反映させ、組織のニーズに合わせて活用することが求められます。具体的な行動に結びつけることで、サーベイの結果が企業の競争力強化に繋がります。
報酬サーベイの具体例
それでは、具体的に報酬サーベイの結果を見てみましょう。PeopleXが公開した「報酬サーベイ結果報告<2024年>」では、等級ごとの性別や職種カテゴリの報酬データや、職位と職種カテゴリの掛け合わせでのデータを公開しています。
たとえば、下記のグラフからは、同じ等級でも男女間の賃金格差が存在し、等級が上がるにつれてその格差が拡大する傾向が見られることがわかります。
本データについて、より詳しく知りたい方は、こちらのレポートを閲覧してください。
なお、本データは、データベースから統計情報として切り出したものになりますが、実際の報酬サーベイ報告では、この平均値と比較して、自社のデータがどのような位置にあるかを示すケースが多いようです。
まとめ
報酬サーベイ(報酬調査サービス)とは、役員や社員の報酬水準の分析・調査を行う人事データリサーチサービスのことです。このデータは企業が役員や従業員の報酬水準を市場全体と比較するための重要なツールとなります。調査対象には基本給、ボーナス、インセンティブ、福利厚生など、さまざまな報酬要素が含まれます。企業はこのデータを活用して、競争力のある報酬体系を構築するとともに、優秀な人材を確保・維持することができます。
PeopleXでは、独自に集計したデータをもとに、職種別の賃金相場を調べることができる「報酬サーベイ」サービスを提供しています。詳しくはこちらのページをご覧ください。