2025.05.13
ワークエンゲージメントとは? 高める方法から具体的な測定法まで解説

ワークエンゲージメントとは、社員の仕事に対するやりがいや、ポジティブで前向きな心理状態を指し、企業の成長に大きく影響する要素として近年注目されています。
この記事では、ワークエンゲージメントの構成要素やワークエンゲージメントと混同されがちな他の概念との違いを解説します。さらに、ワークエンゲージメントで得られるメリットや高める方法、測る尺度などもお伝えしますので、参考にしてください。
ワークエンゲージメントとは
ワークエンゲージメントとは、仕事に対して情熱を持ち、意欲的に取り組んでいる心理状態のことです。単なる満足感ではなく、仕事に誇りを持ち、エネルギッシュに取り組みながら、仕事から活力を得ている心理状態を指します。
ワークエンゲージメントは、オランダのユトレヒト大学の教授らによって定義づけられた概念です。彼らによると、ワークエンゲージメントは特定の対象や出来事、個人、行動などに向けられた「一時的な状態」ではなく、仕事に向けられた「持続的かつ全般的な感情と認知」と定義されています。
ワークエンゲージメントを構成する3つの要素
ワークエンゲージメントを構成する要素として、次の3つがあります。
- 活力
- 熱意
- 没頭
それぞれについて詳しくお伝えします。
活力
ワークエンゲージメントの中核をなす要素が「活力」です。仕事に対してポジティブに取り組み、困難な状況に直面しても前向きに対応できる状態です。仕事をすることで活力を得て、ストレスなく楽しんで仕事ができます。活力が高い社員は、組織の成長に大きく貢献します。
熱意
「熱意」も、ワークエンゲージメントの中核をなすひとつです。熱意とは、誇りややりがいを持ち、積極的に仕事に取り組む状態です。熱意は、他の社員の士気を高めることにつながります。
没頭
ワークエンゲージメントのもうひとつの中核が「没頭」です。没頭とは、仕事に集中し、時間を忘れるほど夢中になる状態を指します。没頭した状態で仕事に取り組むと、高い生産性を発揮でき、クリエイティブなアイデアも生まれやすくなります。
従業員エンゲージメントとの違い
ワークエンゲージメントと混同されがちな概念に、「従業員エンゲージメント」があります。従業員エンゲージメントとは、企業や組織に対する愛着や忠誠心、貢献意欲を指し、個人と組織との関係性に重点が置かれています。一方、ワークエンゲージメントは、個人の仕事そのものに対する意欲や情熱、充実感に焦点を当てている点が大きな違いです。
ワークエンゲージメントを高めるには、個人のスキル向上や成長機会の提供、職場環境の改善などが考えられます。一方、従業員エンゲージメントを向上させるには、企業理念の浸透や社員の意見を尊重する取り組み、適切な報酬・評価制度の確立が有効です。
ただし、これらは無関係ではなく、相互に影響し合います。ワークエンゲージメントが高くなる環境を整えれば、社員は組織へ愛着を持ちやすくなり、従業員エンゲージメントも向上します。逆に、組織に対する信頼感や帰属意識が高まれば、社員は主体的に仕事に取り組むようにもなり、ワークエンゲージメントも高まるでしょう。
つまり、どちらか一方の向上を目指すことで、もう一方にも好影響をもたらすという相乗効果が期待できます。企業が持続的な成長を遂げるには、両者のバランスを意識しながら、組織全体で働きがいのある環境を整えることが重要です。
ワークエンゲージメントが注目される背景
ワークエンゲージメントは、2019年9月に厚生労働省が公表した「令和元年版 労働経済の分析 ー人手不足の下での『働き方』をめぐる課題についてー」で取り上げられ、注目を集めました。その背景には、労働人口の減少や人材の流動化といった社会的な変化があります。
近年、副業の解禁やテレワークの普及、転職市場の活発化により、個人と企業との関係性は、大きく変化しました。従来の終身雇用や年功序列といった雇用のあり方が見直される中、企業が社員と関係を長く維持し続けることが難しくなっています。さらに、労働人口減少の観点からも、優秀な人材の確保と定着が企業にとって大きな課題となっています。
このような背景が、社員の意欲を引き出す職場環境づくり、すなわちワークエンゲージメントの向上が注目される理由です。
ワークエンゲージメントが向上すれば、社員のモチベーションや生産性が上がるだけでなく、職場への愛着や満足感も高まり、人材の定着につながります。企業が持続的に成長し発展を続けるためには、ワークエンゲージメントの向上が欠かせません。
参照:厚生労働省|令和元年版 労働経済の分析 ー人手不足の下での「働き方」をめぐる課題についてー
「ワークエンゲージメント」以外の仕事に対する意欲や心理状態を表す概念
「ワークエンゲージメント」以外に、仕事に対する意欲や心理状態を表す概念として、次の3つがよく知られています。
- リラックス
- ワーカホリズム
- バーンアウト
「リラックス」や「ワーカホリズム」は、ワークエンゲージメントと共通する部分はあるものの、生産性や感情の面で違いがあります。一方、「バーンアウト」は、ワークエンゲージメントとは正反対のネガティブな状態です。
社員の心と身体の状態を示す重要な概念であるため、それぞれの違いをきちんと理解しておきましょう。
リラックス
リラックスとは、安心感を持ちながら仕事に取り組んでいる状態です。ポジティブな心理状態ではありますが、必ずしも高い活動水準を伴うとは限りません。リラックスしていると、仕事への満足度は高まるものの、ワークエンゲージメントのように生産性や成果の向上に直結するわけではない点が特徴です。
ワーカホリズム
ワーカホリズムとは、私生活や健康を犠牲にするほど仕事に没頭している状態を指します。ワークエンゲージメントの場合、仕事に対して前向きな感情を持ちながら取り組むのに対して、ワーカホリズムは「やらなければならない」という義務感が強く、心理的な負担が大きい点が異なります。
バーンアウト
バーンアウトは、ワークエンゲージメントとは対極の状態です。長期間のストレスや過度な業務負担によって、エネルギーを消耗し、仕事への意欲を失ってしまう状態を指します。たとえば、仕事に熱心に取り組んでいるものの、期待した成果が得られなかった場合などに陥りやすいでしょう。
ワークエンゲージメントを高めるメリット
ワークエンゲージメントを高めることで得られる主なメリットは、次の4つです。
- 離職率が低下する
- 生産性が上がる
- 顧客満足度が上がる
- 社員のメンタルヘルスが向上する
それぞれのメリットの内容を詳しくお伝えします。
離職率が低下する
ワークエンゲージメントが高い社員は、職場への愛着や仕事へのやりがいを強く感じるため、自発的に会社にとどまる傾向にあります。ワークエンゲージメントを高めることで、離職率の低下につなげられるでしょう。
ワークエンゲージメントを高める対策として、公正な評価制度やスキルアップの機会の提供、職場環境の整備などが有効です。社員は自身の成長を感じられるようになり、長期的なキャリアビジョンを描きやすくなります。その結果、離職を防ぐことができ、人材流出によるコスト削減にもつながるでしょう。
生産性が上がる
生産性の向上も、ワークエンゲージメントを高めるメリットのひとつです。ワークエンゲージメントを感じる社員は、仕事への意欲が高くなります。新しいスキルを積極的に学び、業務の効率化や改善策を自ら考えるようになるでしょう。
また、ワークエンゲージメントが高い社員はチーム全体の成功を意識するため、チームワークの連携強化に強く働きかけるようになるのもメリットです。コミュニケーションが円滑になり、情報共有がスムーズに行われることで、業務全体のパフォーマンスが向上します。
顧客満足度が上がる
ワークエンゲージメントを高めることは、顧客満足度の向上にもつながります。ワークエンゲージメントの高い社員は、自然と顧客への対応も丁寧になり、信頼感や安心感を与えることが可能であるためです。
とくにサービス業や営業職では、社員の態度やモチベーションが、顧客満足度に大きく影響します。ワークエンゲージメントの高い社員が増えると、企業のブランドイメージが上がり、リピーター獲得や口コミによる新規顧客の増加につながります。
社員のメンタルヘルスが向上する
社員のメンタルヘルスの向上も、ワークエンゲージメントを高める大きなメリットです。ワークエンゲージメントが高まると、仕事に対してポジティブな感情を持ち続けることができ、ストレスの軽減や精神的な安定につながります。困難な課題にぶつかっても、前向きに取り組むことができるようになり、職場での人間関係も良好になりやすいでしょう。
ワークエンゲージメントを高める方法
ワークエンゲージメントを高めることで、社員の満足度や仕事への意欲が向上し、結果として企業の成長につながります。ワークエンゲージメントを高めるためには、「個人の資源」と「仕事の資源」の両方を充実させることが必要です。ここでは、それぞれの資源を高める具体的な方法を解説します。
「個人の資源」を高める
「個人の資源」とは、社員が自身の内面的な力を活かし、仕事に対するモチベーションを高める要素です。とくに、次の3つの要素を伸ばすことが必要です。
- 自己効力感の向上
- 組織内部での自尊心の向上
- 仕事や職場に対するポジティブな感情
自己効力感とは、「自分はこの仕事をやり遂げられる」といった自信を指します。自己効力感を高めるには、達成感を得られる体験を積み重ねることが有効です。スモールステップで目標を設けて、成功体験を積むことで自己効力感を得られるようになります。
また、自分の存在価値を認識し、組織の中で重要な役割を果たしていると感じることも必要です。実績や貢献を定期的にフィードバックしたり、感謝の言葉をかけたりすることで、社員の自尊心向上につながります。
ほかにも、仕事や職場に対するポジティブな感情を高めることも、ワークエンゲージメントの向上に役立ちます。仕事や職場に対してポジティブな感情を育むためには、困難な状況に直面している社員に対して、充実したサポートや建設的なフィードバックを行うことが有用です。失敗を成長のためのステップと捉えられるような風土づくりが欠かせません。
「仕事の資源」を高める
「仕事の資源」とは、社員が職場から得られるサポートや職場環境のことです。これらが充実すると、社員の安心感や新しいことに挑戦する意欲が高まり、自然とワークエンゲージメントも向上します。
以下のような取り組みは、仕事の資源を高めるのに役立ちます。
- 上司や同僚のサポート強化
- トレーニング機会の提供
- 多様なミッションへの挑戦
- コーチングの導入
社員が心理的にストレスを感じずに、安心感を持って業務に集中できるように、上司や同僚のサポートは不可欠です。周りの社員と信頼関係が築けていれば、前向きな状態でいられ、新しいことにも恐れずに挑戦できます。このような状態こそが、ワークエンゲージメントの土台となります。
スキルアップのためのトレーニングを提供することも重要です。さまざまなトレーニングによって、「さらに上を目指そう」と成長意欲を高められます。自分の成長が感じられる環境は、仕事への没頭感や意義の実感につながり、ワークエンゲージメントを高めます。
また、社員が多様なミッションへ挑戦できる取り組みも、仕事の資源を豊かにする要素です。自身の可能性を広げる体験や新しい視点との出会いは、仕事に対する前向きな姿勢を生み出し、ワークエンゲージメント向上に直結します。
さらに、コーチングの導入も仕事の資源を高めるのに効果的です。。経験豊富な社員がコーチとなり、若手社員を育成する仕組みを整えることは、社員自ら学び続けるといった職場づくりに役立ち、職場全体のワークエンゲージメントの底上げにつながります。
ワークエンゲージメントを測る3つの方法
ワークエンゲージメントを高める上では、その状態を的確に把握しておくことが必要です。そのために、ワークエンゲージメントを測る方法としては、次の3つがあります。
- UWES(Utrecht Work Engagement Scales)
- MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)
- OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)
それぞれの方法について解説します。
UWES(Utrecht Work Engagement Scales)
UWESは、ワークエンゲージメントの3要素(活力・熱意・没頭)を測定する尺度として広く利用されています。17個の質問形式で測定する方法で、精度の高さが特徴です。
MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)
MBI-GSとは、バーンアウトの評価指標として用いられている方法です。ワークエンゲージメントの低下を測定するツールとして活用されています。MBI-GSの数値が高いほど、ワークエンゲージメントが低いとみなされます。
OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)
OLBIもMBI-GSと同様に、バーンアウトの評価のために用いられている方法です。OLBIでは、「疲弊」と「離脱」といったネガティブな項目に焦点を当てて測定します。OLBIの数値が高いほど、ワークエンゲージメントは低いということを意味します。
まとめ
ワークエンゲージメントとは、仕事に対して前向きで充実した心理状態を指し、「活力」「熱意」「没頭」の3要素から構成されます。ワークエンゲージメントを高めると、離職率の低下や生産性の向上など、さまざまなメリットを得られます。
ワークエンゲージメントを向上させるには、「個人の資源」と「仕事の資源」の両方を高めることが有効です。ワークエンゲージメントの向上は、社員の満足度や仕事への意欲を高め、それが企業の持続的な成長につながります。企業のさらなる発展のためにも、ワークエンゲージメントを考慮した体制づくりが大切です。

この記事を担当した人
PeopleX コンテンツグループ
人事・労務・採用・人材開発・評価・エンプロイーサクセス等についての用語をわかりやすく解説いたします。
これまでに出版レーベル「PeopleX Book」の立ち上げ、書籍『エンプロイーサクセス 社員が成功するための7つの指針』の企画・編集、PeopleX発信のホワイトペーパーの企画・編集などを担当しました。
- 株式会社PeopleXについて
- エンプロイーサクセスHRプラットフォーム「PeopleWork」の開発・運営をはじめとした、新しい時代に適合したHR事業を幅広く展開する総合HRカンパニーです。