人事労務
2024.11.29
懲戒解雇とは?懲戒解雇に該当するケースや法的根拠、実際に行う時の手順などを紹介
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企業と社員との関係においては、規律や秩序の維持が求められます。しかし、社員が会社の規則に著しく反する行動を取った場合、会社は社員を解雇することがあります。懲戒解雇は、他の解雇形態と比べて厳しい処分であり、社員に大きな影響を与える可能性があります。この記事では懲戒解雇の基礎や種類、法律的な根拠などを詳しく紹介します。
懲戒解雇とは?
懲戒解雇とは、企業が社員の重大な規律違反や背信行為を理由に、即時に労働契約を解除する処分です。懲戒処分の中でも最も重い処分であり、規律違反に対する制裁として行われます。
能力不足や病気による就業不能が基準となる普通解雇とは大きく異なり、懲戒解雇を受けた社員は雇用保険の失業給付に対して一定の制限が課されることが一般的です。また、退職金についても会社の規定により支給されない場合が多いです。
懲戒解雇は普通解雇に比べ、社員にとって大きな不利益を含むため、厳格な理由と手続きが求められます。
懲戒解雇に必要な要件
懲戒解雇は社員に対する最も重い処分であり、その実施には厳格な要件が求められます。労働契約法や就業規則に基づき、懲戒解雇が認められるために欠かせない要件を3つ紹介します。
- 社会通念上、相当であること
- 就業規則への明記
- 手続きの適正さ
それぞれ詳しく見ていきましょう。
社会通念上、相当であること
懲戒解雇の処分は、社員の行為が懲戒解雇に値するほど重大であり、他の処分では適当でない場合に限られます。解雇の妥当性は、「社会通念上、相当かどうか」を基準に判断します。つまり、その違反行為が企業に与える影響や、社員の過去の勤務態度などを総合的に判断した結果、解雇が適切であるとみなされる必要があります。
就業規則への明記
懲戒解雇を行うためには、就業規則に懲戒解雇の理由や手続きが明記されていることが必要です。これによりどのような行為をすれば懲戒解雇の対象となるかを企業と社員で事前に共有しておくことができます。
手続きの適正さ
懲戒解雇を行う際には、適正な手続きを踏むことが求められます。とくに社員に対して、弁明の機会を与えることが欠かせません。手続きの不備があった場合、懲戒解雇が無効と判断されることがあります。また、社員は解雇予告手当やその他の補償を請求できる場合があります。
参照:ベリーベスト法律事務所
懲戒解雇に該当するケース
懲戒解雇は、企業が社員に対して行う最も厳しい処分であり、通常は重大な規律違反や職場の信頼関係を著しく損なう行為に対して適用されます。以下に、どのような行為が懲戒解雇に該当するか、具体例や法的な根拠を交えて5つ紹介します。
- 業務上の横領・窃盗
- 社内暴力・ハラスメント
- 業務上の背信行為
- 重大な業務怠慢
- 虚偽報告や詐欺行為
それぞれ詳しく見ていきましょう。
業務上の横領・窃盗
企業の財産や金銭を横領・窃盗する行為は、懲戒解雇に該当する最も代表的な例です。業務中に会社の金銭や資産を不正に使用したり、横領した場合、即時解雇が正当化されることが一般的です。横領や窃盗は、刑法上の犯罪行為に該当し、懲戒解雇の理由として認められます。また、労働契約法第16条では、企業と社員の信頼関係が破壊された場合に解雇が認められるとされており、横領や窃盗行為はこれに該当します。
社内暴力・ハラスメント
職場内での暴力行為や、他の社員に対するセクハラやパワハラも懲戒解雇の対象となります。ハラスメント行為への防止措置については、厚生労働省の指針で細かく定められています。労働契約法においても、暴力やハラスメント行為は社員としての基本的な義務に違反するため厳しく禁じられています。また、セクハラやパワハラについては、労働施策総合推進法や男女雇用機会均等法により禁止されており、違反者は懲戒解雇の対象となります。
業務上の背信行為
企業の営業秘密や顧客情報を無断で外部に漏洩する行為は、企業に対して深刻な損害を与えるため、懲戒解雇の理由になります。たとえば、社員が会社の重要な顧客リストや技術情報を競合他社に売却した場合、企業の営業上の損害は甚大です。企業秘密の漏洩や背信行為は、労働契約法第3条4項に定める「信義誠実の原則」に違反する行為に該当します。
重大な業務怠慢
重大な業務怠慢も懲戒解雇の理由となります。長期的な無断欠勤や業務命令に従わない行為などは、会社の秩序や業務遂行に深刻な影響を及ぼすためです。たとえば、社員が連絡をせずに1週間以上無断欠勤し、その後も業務復帰の意思を示さない行為は、社員としての基本的な義務に反すると認められ、就業規則や労働契約法に基づき懲戒解雇が認められるケースが多いです。
虚偽報告や詐欺行為
社員が虚偽の報告を行ったり、詐欺行為を働いた場合も懲戒解雇の対象となります。たとえば、社員が出勤していない時間を勤務時間として報告して給与を不正に受け取ったり、実際には支出していない経費を虚偽の請求で会社から回収していた場合などがこれに該当します。労働契約において、社員は誠実に勤務することが求められており、虚偽の報告や詐欺行為は契約の基本的な前提に反します。
上記以外にも、飲酒運転や薬物所持などの違法行為も企業の秩序や信頼関係を著しく破壊するものであり、懲戒解雇が認められます。企業はこれらの行為に対して適正な手続きを踏みつつ、労働契約法や就業規則に基づいて懲戒解雇を行うことが求められます。
懲戒解雇を行う際の注意点
懲戒解雇の実施には慎重な対応が求められます。懲戒解雇が不当と認められる場合、企業は法的なリスクや経済的な負担を負う可能性があるからです。以下に、懲戒解雇を実施する際に企業が直面し得るリスクを3つ紹介します。
- 不当解雇と判断されるリスク
- 訴訟のリスク
- 士気低下と社員離職のリスク
それぞれ詳しく見ていきましょう。
不当解雇と判断されるリスク
懲戒解雇が不当と判断されると、企業は法的な責任を負うことになります。社員が訴訟を起こし、裁判所が解雇を無効と判断した場合、企業は社員を復職させたり、解雇無効の賠償金を支払うことになります。過去の判例では、裁判所が「懲戒解雇が過剰であった」と判断したケースがありました。この場合、解雇は無効とされ企業が解雇期間中の賃金を支払うことになります。
訴訟のリスク
懲戒解雇を行った際、社員が訴訟を起こすリスクがあります。社員が解雇を不当と訴えた場合、企業は労働審判や裁判に時間とコストをかけて対応しなければなりません。さらに、法的に不利な判断が下された場合、解雇無効の他、社員に対して賠償金や和解金を支払う必要があります。
士気低下と社員離職のリスク
懲戒解雇が不当、または厳しすぎると他の社員の士気に悪影響を与え、職場の雰囲気や信頼感が損なわれることがあります。過度な懲戒処分は社員の心理的な不安を引き起こし、職場全体のパフォーマンスが低下し、それに伴い優秀な人材が流出するリスクがあります。
懲戒解雇のステップ
懲戒解雇を行う際、適切な手順を踏まれていないと法的トラブルや不当解雇とみなされるリスクが伴います。以下に、懲戒解雇を実施する際に企業が取るべきステップを5つの段階に分けて解説します。
- 違反行為の確認と証拠の収集
- 就業規則と法律に基づく判断
- 社員への警告や指導
- 社員に弁明の機会を与える
- 懲戒解雇の決定と通知
1. 違反行為の確認と証拠の収集
まず、社員が懲戒解雇に該当する行為を行ったかどうかを確認し、その行為が就業規則に基づいて懲戒解雇の対象となるかを判断します。証拠の収集は、解雇の正当性を証明するために極めて重要です。
2. 就業規則と法律に基づく判断
企業は該当する行為が懲戒解雇の理由として認められるかどうかを確認します。労働契約法や労働基準法、就業規則に従って、該当行為が懲戒解雇に該当するかどうかや、その解雇が「客観的に合理的で、社会通念上相当」であるかどうかを検討します。
3. 社員への警告や指導
社員の行為が懲戒解雇に至る前に、通常は警告や指導を行います。とくに違反行為が初回で軽微なものである場合、いきなり懲戒解雇に踏み切るのではなく、事前に是正を促す機会を与えることが重要です。度重なる違反がある場合は、より厳しい処分(減給や停職など)を実施し、その記録を残しておきます。
4. 社員に弁明の機会を与える
懲戒解雇を行う前に、社員に弁明の機会を与えることが不可欠です。これは社員の立場や言い分を公正に聞くための手続きであり、労働契約法や労働基準法に基づく要件でもあります。社員に対して正式な通知を行い、ヒアリングや事情聴取を実施します。この際、社員の言い分や状況を記録に残し、後のトラブル防止に役立てます。
5. 懲戒解雇の決定と通知
社員の弁明を聞いた後、企業は正式に懲戒解雇を決定します。その際には、文書で解雇の理由を明示し、社員に通知します。文書には、違反行為の内容や懲戒解雇の理由、実施日などを具体的に記載します。通知文書においては社員が受け取ったことを確認するため、署名や受領書を取ることが望ましいです。
懲戒解雇は、適切な手続きと十分な証拠を持って行わなければ、法的リスクを招く可能性があります。手順を踏みながら、社員の権利を尊重し、合理的で公正なプロセスを守ることが重要です。
まとめ
懲戒解雇とは、企業が社員の重大な規律違反や背信行為を理由に、即時に労働契約を解除する処分です。厳しい対応手段である一方で、適切な手順と正当な理由をもって行う必要があり、不当な懲戒解雇は後に法的トラブルに発展するリスクがあるため、慎重な対応が求められます。懲戒解雇を実施する際には、就業規則の整備や法律に基づく適正な手続きを遵守しましょう。