人事労務
2024.12.19
【企業向け】産休の基本的なルールと復帰時に求められる対応、注意点などを紹介
- #手続き
- #産休後復帰
産休・育休は、企業と社員双方にとって重要な制度であり、働きやすい職場環境づくりに欠かせません。しかし、正当にルールが適用されない場合、思わぬトラブルにつながることも少なくありません。この記事では、産休の基本的なルールや復帰において注意すべき点、スムーズな復帰をサポートするためのポイントなどを紹介します。
産休のルール
「産休(産前産後休業)」とは、労働基準法に基づき、出産前後に取得できる休業制度です。この期間、社員は心身の負担を軽減し、安心して出産に専念できる環境が保障されます。
産休は法律で保障された権利であり、企業は社員の産休を拒否することはできません。日本の労働基準法では、法律上の条件を満たしたすべての女性に対して産休の取得が認められています。
以下、対象者・取得期間・休業中の賃金に関する基本的なルールを紹介します。
対象者
産休は、正社員・契約社員・パートタイムなど雇用形態に関わらず、企業に属するすべての女性が取得可能です。
取得期間
産前休業:出産予定日の6週間前から休業することが可能です。(多胎妊娠の場合は14週間前から可能)
産後休業:出産日から8週間(56日間)は必ず休業することが義務付けられています。なお、産後6週間を経過すれば、本人が希望し医師が認めた場合に限り、就業することができます。
休業中の賃金
産休中の賃金支払いは、企業の任意とされ、必ずしも給与が支払われるわけではありません。ただし、産休中は健康保険の「出産手当金」が支給されます。これは、標準報酬日額の約3分の2に相当する額が支給され、産休中の生活保障の一助となります。
産休を取得できないケース
企業は基本的に、社員からの産休の申し出を拒否することはできません。また、企業が産休取得を理由に不利益な扱いを行うことも違法であり、産休を理由とした解雇や降格は「マタニティハラスメント」に該当し、厳しく制限されています。
しかし、特定の条件においては、産休の対象外になる場合があります。たとえば、契約社員のように期間を定めて雇用されている社員であり、子供が1歳6ヶ月になる日までに労働契約が満了することがわかっている場合は産休の対象外になります。
また、労使協定によって以下に該当すると育休を取れない場合があります。
- 継続して雇用された期間が1年未満の場合
- 育休の申し出の日から1年以内に雇用関係が終了することが明らかな場合
- 1週間の所定労働日数が2日以下の場合
このような労使協定がある場合で、上記のどれか1つに当てはまる人から申請があったとき、会社は育休の申し出を拒否することができます。
参照:アディーレ法律事務所
復帰時に求められる対応やフォロー
企業としては、産休・育休からの復帰者がスムーズに業務に戻れるよう、事前に必要な手続きとサポート体制を整備することが重要です。これにより、社員が安心して復帰でき、職場全体の円滑な運営を図ることができます。
以下に、復帰に向けた一般的な企業側の対応とフォローを紹介します。
- 復帰時期の確認
- 復帰後の職務内容の確認
- 短時間勤務の申請サポート
- 勤務証明書の発行
- 復帰後のフォロー面談
それぞれ詳しく見ていきましょう。
復帰時期の確認
社員が復帰を希望する時期について、産休・育休終了の1~2か月前に意向を確認します。必要に応じて「復帰意向確認書」などを記入してもらい、正式な復帰日を確定させます。
復帰後の職務内容の確認
社員の生活状況や子育て環境に合わせ、復帰後の職務内容や勤務形態について事前に話し合います。可能な限り社員の希望を尊重し、無理のない勤務形態で働けるよう柔軟に調整します。
短時間勤務の申請サポート
社員が育児と仕事を両立しやすいよう、短時間勤務やフレックスタイム制度の利用申請を支援します。とくに子供が3歳未満の社員には、法定の短時間勤務制度が適用されるため、必要な手続きが円滑に進むよう案内します。
勤務証明書の発行
復帰に際して、社員が保育所を利用する場合は、必要な勤務証明書の発行をします。保育所の申請期限に間に合うよう、担当部署と協力して証明書発行手続きを進めましょう。また、保育所の状況により社員が育休延長を希望する際も、その要望に柔軟に対応し、必要な延長手続きをサポートします。
復帰後のフォロー面談
社員の復帰直後は、上司や人事担当者によるフォロー面談を行い、業務量や勤務環境についての相談に応じます。復帰者が無理なく業務に馴染めるよう、業務量の調整やサポートを提供し、必要であればチーム内で協力体制を整えることが重要です。
復帰時には、社員がスムーズに業務に戻れるよう柔軟な勤務形態の提案や業務調整、フォロー面談が重要です。個別のサポートと復帰後の環境整備によって、育児と仕事の両立を促し、職場への復帰をサポートできます。
復帰後によくあるトラブルと対処法
社員が産休から復帰する際、業務内容や働き方の変化、産休への理解不足がトラブルに発展するケースが多々あります。これらが原因となり、社員の退職や訴訟につながることもあります。以下に、復帰後よく見られるトラブルの具体例と対処法を4つ紹介します。
- 産休取得の際のキャリアへの影響
- 業務引き継ぎの不足による混乱
- 復帰後の業務内容の変化
- ワークライフバランス維持の困難
それぞれ詳しく見ていきましょう。
産休取得の際のキャリアへの影響
産休に入ることで、キャリアの進展が停滞する、または昇進・評価に影響を受けると感じる社員が多くいます。たとえば、産休前に担当していた重要なプロジェクトから外れたり、復帰後に業務内容が大幅に変わる場合があります。産休や育休を取得することに対する理解や評価体制が不十分である場合、こうした問題が起こりやすくなります。企業は、産休や育休を理由とする不利益な取り扱いを避け、復帰後も公平にキャリアを進められるようにすることが重要です。
業務引き継ぎの不足による混乱
産休に入る社員の業務が十分に引き継がれないまま休業に入ると、同僚が業務内容を把握できず、引き継ぎの不備からトラブルが発生することがあります。また、引き継ぎが徹底されていないと、復帰後に再びスムーズに業務に戻れないケースもあります。引き継ぎに十分な時間を設け、後任者が業務内容を把握できるよう事前にマニュアルや手順書を準備することが効果的でしょう。
復帰後の業務内容の変化
産休後に復帰した際に、産休前と大きく異なる業務に配属される、あるいは役職や労働条件が変更される場合があります。こうした予期せぬ変化は、復帰者にとって不満やストレスの原因となり、また、訴訟につながるケースもあります。産休前に上司や人事担当者と今後の業務内容について話し合い、本人の意思を尊重するようにしましょう。また、復帰後も働きやすいよう柔軟な配置変更や勤務形態を考慮することが望ましいです。
ワークライフバランス維持の困難
復帰後に育児と仕事の両立が難しく、社員が疲労やストレスによって体調を崩したり、業務遂行が難しくなるケースがあります。とくに、産休後にフルタイムで復帰した場合、家庭とのバランスが取れず、退職を余儀なくされることも多く見られます。企業は、時短勤務制度やフレックスタイム制度の導入を通じて、育児と仕事の両立が図れるようサポート体制を整えることが重要です。また、復帰後も定期的に面談を行い、勤務形態の見直しや悩み相談を行うと、社員が安心して働き続けやすくなります。
産休に関わるトラブルを防ぐには、企業側の理解とサポート体制の整備が不可欠です。社員が産休・育休後も安心して働き続けられる職場づくりは、企業にとっても大きなメリットをもたらします。
育休のルール
産休とセットで取ることが一般的なのが「育休(育児休業)」です。育休は、子どもが生まれた後にその養育のために取得できる休業期間で、育児・介護休業法によって保障されています。男女ともに取得可能で、企業はこれを拒否することができませんので、産休のルールに合わせて確認しておきましょう。
以下、対象者・取得期間・休業中の賃金に関する基本的なルールを紹介します。
対象者
育休は、以下の条件を満たすすべての労働者(正社員、契約社員、パートタイム)に認められています。
- 同一の雇用主に1年以上雇用されている。
- 育休取得後に復帰する見込みがある。
- 週の労働日数が2日以上である。
また、2017年の改正により、パートタイムなどの有期雇用契約者も条件を満たせば育休を取得できるようになりました。
取得期間
育休は、原則として子どもが1歳になるまで取得可能です。また、保育所に入所できないなどの事情がある場合は最大2歳まで延長もできます。
休業中の賃金
育休中も賃金の支払いは企業の任意ですが、育休を取得している期間中は雇用保険から「育児休業給付金」が支給されます。支給額は、休業開始から180日間は賃金の67%、それ以降は50%となっています。育児休業給付金の支給条件としては、育休中も雇用保険に加入していることが必要です。
まとめ
産休・育休からの復帰をスムーズにするには、企業と社員が一体となって準備することが重要です。復帰時には必要な手続きに加え、柔軟な業務調整をし、社員が安心して復帰できる体制を整えましょう。また、復帰後にはフォロー面談を通じて不安や課題を把握し、育児と仕事を両立できるよう支援します。このような対応により、社員が無理なく職場に馴染み、長期的な活躍が期待できる環境を実現しましょう。